No.5024 (2020年08月08日発行) P.62
杉浦敏之 (杉浦医院理事長)
登録日: 2020-07-29
最終更新日: 2020-07-29
日本救急医学会は「救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン)」を2007年11月に作成。その改訂版である「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン 〜3学会からの提言〜」を日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本循環器学会の共同で2014年11月4日に公表した。その内容は、救急・集中治療における終末期の定義とその判断、延命措置への対応、それに対する医療チームの役割やカルテ記載などについてである。卒後の2年間、医師としての黎明期に救急医療センターに勤務した筆者は、これを読んで当時の自身が行った医療行為についての反省とともに、すべての内容について強く同意した。
ところが、現時点での日本の法律に照らし合わせると、いくつかの問題点があるとの指摘がある1)。現行の法律では、本人、本人の意思確認が不可な場合は家族の同意なくして延命処置を取りやめることは殺人罪、同意があったとしても嘱託・承諾殺人罪あるいは自殺幇助罪に問われる可能性が存在し、これは法改正がなされるか、あるいは新たな法律が成文化されない限りガイドラインでいかに定義されようとも事情は変わらない。しかし、刑法では明文化されていないが、一定の正当化要件が認められた場合、超法規的に違法性が阻却される(いわゆる安楽死の法理)。ただ、その条件が大変厳密であり、現時点ではそれが認められた例はないと思われる。しかしながら、人工呼吸器などの生命維持装置を外すといった積極的安楽死にかかわる行為は刑法上のリスクはあるとしても、水分、栄養の補給の制限、中止あるいは人工透析を行わない行為は「消極的安楽死」という法律上の類型に分類され、これは「不作為の行為」として適法な安楽死と認められることは容易とされる1)。この「消極的安楽死」が日本尊厳死協会の主張する「尊厳死」とほぼ同義であると思われる。残念ながら、現行の法文には「尊厳死」という言葉は存在しない。生命と真摯に対峙する医師の法的なリスクをなくすためにも「尊厳死」の定義を法律に盛り込む必要があると考える。
次回は終末期医療にかかわる法的なジレンマと、死亡時期の判断にかかわる相続の問題について言及する。
【文献】
1)根本晋一:日本大学歯学部紀要. 2007;35:85-99.
杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療⑦]