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【識者の眼】「子どもの社会的入院、望まれるのは医療と福祉の横の連携」石﨑優子

No.5025 (2020年08月15日発行) P.61

石﨑優子 (関西医科大学小児科学講座准教授)

登録日: 2020-07-31

最終更新日: 2020-07-31

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被虐待児の社会的入院とは、被虐待児(ネグレクトも含む)が入院し、入院治療を継続する医学的必要性がなくなった後にも自宅に帰すわけにはいかず、さりとて一時保護所や施設に空きがないため、入院を継続している状況である。児童虐待通告件数が日本一多い大阪府で、2015年に一般社団法人大阪小児科医会に被虐待児養育環境問題検討委員会が設置され、経験症例を検討し、①医学的な理由が乏しいにもかかわらず家庭環境のために医療機関に入院している保護者の「養育力不足」の場合、②虐待により重度の後遺障害をきたして医療的ケアを必要とし、受け入れ先がなく入院が延長している「虐待の後遺症」による場合─に大別した。同年の調査で医会は、大阪府内で直近の3年間に「養育力不足」例はのべ168名、「虐待の後遺症」例は29名であったと報告した。当時は大阪府だけの問題と考えていたふしもあるが、翌年溝口らが行った調査で2015、16年に入院管理を行った被虐待事例の22.0%が社会的入院を要しており、全国で起こっていることを報告した。さらに2019年3月の厚生労働省補助研究「医療機関における被虐待児童の実態に関する調査(PwCコンサルティング株式会社)」では、直近1年間の全国の社会的入院患者数は399名とされた。

このように「子どもの社会的入院」の認識が広がった反面、「被虐待児の」とすることにより暴力による外傷の後遺症を負っているような印象を持たれるようである。しかし「養育力不足」例の多くは、親自身が身体・精神疾患や知的障害等により、手がかかる乳幼児の子育てがうまくできない状態にある。例を挙げると知的障害や精神疾患を持つシングルマザーが援助のない中で出産・子育てをするような場合である。このような子どもたちに必要なものは医学的治療より適正な栄養と家庭的な環境であり、医療より福祉であろう。子どもたちのために医療、福祉の縦割りの行政が、横の連携を実現することを強く望みたい。

石﨑優子(関西医科大学小児科学講座准教授)[児童虐待]

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