No.5025 (2020年08月15日発行) P.58
峰松一夫 (公益社団法人日本脳卒中協会理事長、国立循環器病研究センター名誉院長、医療法人医誠会臨床顧問)
登録日: 2020-07-31
最終更新日: 2020-07-31
発症3時間以内の急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法、rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法が国内承認された2005年から15年が経過し、治療可能時間も当初の発症3時間以内から4.5時間以内に延長された。最近では発症時間不明例でもMRIのFLAIR画像の所見次第では、治療適応になりうることが示されている。また、機械的血栓摘除術の有効性が明らかになるにつれ、血栓溶解療法との併用の可否についての検討も始まっている。
わが国の急性期脳梗塞診療に定着した血栓溶解療法も、国内承認前に「失われた10年」と言われた時代があった。初期の開発競争では、わが国は米国やドイツと肩を並べ、先頭を走っていた。本療法に関する国際シンポジウムは第1回がドイツ、第2回が米国、第3回が日本(奈良市)で開催された。第3回会議の事務局長は小生が担当し、会長の山口武典(当時、国立循環器病センター部長)が、国内治験成績での有意の閉塞動脈再開通効果を明らかにした。この治験で用いられた製剤duteplaseはしかし、米国の製薬メーカーから特許権侵害で訴えられ、国内メーカーは製造販売を断念した。本薬の国内での脳梗塞に対する適応承認も幻となった。一方、米国メーカーの製剤アルテプラーゼを用いた治験成績が1995年に発表され、有意の転帰改善効果が報告された。1996年には米国で薬事承認を受け、以後海外では、脳梗塞に対する血栓溶解療法時代が到来した。
一方わが国では、類薬の開発研究がすべて中止となり、以後約10年にわたる冬の時代を経験した。1999年に日本脳卒中学会は厚生労働省に「脳梗塞に対するrt-PA静注療法承認」の要望書を提出し、2002〜04年にアルテプラーゼを用いた治験J-ACTが実施された。その成績は1995年の米国での治験成績と同等と判定され、2005年の国内薬事承認の根拠となった。
本療法の実施率は未だ5%前後と低く(欧米では20%が目標)、地域格差も大きい。失われた10年をやっと克服しつつあるものの、解決すべき問題はまだ山積している。
峰松一夫(公益社団法人日本脳卒中協会理事長、国立循環器病研究センター名誉院長、医療法人医誠会臨床顧問)[脳卒中]