No.5030 (2020年09月19日発行) P.56
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2020-09-07
最終更新日: 2020-09-07
2019年3月に厚生労働省は「授乳・離乳の支援ガイド」を改定し、そこで母乳栄養によるアレルギー予防効果はないことが新たに明記されました。この内容はマスコミでも積極的に取り上げられ、母乳への過度な期待が親たちを悩ませている現状を踏まえて、授乳支援の見直しを呼び掛けたものとして話題になりました。しかしながら実際のガイドを見てみると、アレルギー予防に関しての記載は脚注で控えめに「母乳による予防効果については、システマティックレビューでは、6カ月間の母乳栄養は、小児期のアレルギー疾患の発症に対する予防効果はないと結論している」と記載されているのみで、それほど大きな扱いにはなっていません。マスコミの報道はやや過剰であったことは否めません。
実際、文献的にも母乳栄養のアレルギー予防効果についてはかねてより議論が多く、依然として様々な報告がされています。少し古いですが、我々も京都市の小中学生約1万3000人を対象とした疫学調査で母乳栄養と学童期のアレルギー症状の関連性を検討し、母乳栄養児に学童期の喘息症状有症者が少ないことを2010年に報告しました1)。今までのエビデンスの蓄積をもとに、米国小児科学会は2019年に母の食事制限、母乳栄養、加水分解乳、離乳食開始時期など妊娠中や生後早期の食事介入によるアレルギー予防効果についての見解を発表しました2)。これは2008年に発表した見解を更新したもので、「生後3〜4カ月を超える母乳栄養(完全、混合を問わず)には、その期間に関わらず2歳までの喘鳴を予防する効果があるとのエビデンスがある」「長期にわたる母乳栄養(完全、混合を問わず)には、5歳を過ぎても喘息予防効果があるとのエビデンスがある」などと記載されています。少なくとも喘鳴、喘息症状に関しては母乳栄養による予防効果を期待しても良いのではないかと思われます。
【文献】
1)Kusunoki T, et al:Pediatr Allergy Immunol. 2010;21:60-6.
2)Greer FR, et al:Pediatrics. 2019;143:e20190281.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[アレルギー]