近年、乳児の見守りを目的とした家庭用のモニターやセンサーの市場が拡大しており、保護者から使用について問われることが増えている。これらの機器は、心拍数や呼吸、体動などの生体情報をリアルタイムで感知し、異常があればアラームを発する機能を有しており、ウェアラブルデバイスやスマートフォン連携型の製品も登場している。
こうした技術の進展は、家庭内での乳児の健康管理に新たな選択肢を提供している。しかし、最も関心の高い乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防に関しては、残念ながら十分な効果が実証されていない。SIDSは、健康に見える乳児が突然、死に至る原因不明の疾患である。多くの研究がモニターによる早期発見の可能性を模索してきたものの、現時点では、モニターやセンサーの使用が、SIDSの発症率を低下させる科学的根拠は存在しない。
その理由のひとつに、SIDSと早産児の無呼吸では、病態生理に違いがあることが考えられる。早産児の無呼吸は、呼吸中枢の未熟性により呼吸停止が起こり、心拍数が低下し、低酸素血症に至る。呼吸停止や、心拍数の低下がアラーム作動の契機となるため、低酸素血症に至る前に発見することができる。これに対し、SIDSでは、心拍数が下がる前に既に重度の低酸素状態に陥っていたとの報告があり、アラームが鳴った時点で介入しても困難な状況であると推察される1)。
そのため、米国小児科学会をはじめとする多くの学会は、SIDS予防の手段としてモニターの使用を推奨しておらず、「仰臥位での睡眠」「柔らかい寝具の排除」「母乳育児」「禁煙」など、環境要因への介入を強く勧告している2)。
モニターやセンサーの使用が保護者の不安軽減に寄与する可能性については、一定の報告がある。ある調査では、モニターを使用した保護者の約7割が「安心感が増した」と回答した。また、Owlet社製モニター使用者の96%が「不安が減少した」、94%が「睡眠の質が改善した」と報告している。ただし、後者は製造企業による自主調査であり、利益相反の観点から慎重な解釈が求められる。
一方、モニターの使用がかえって不安を助長する可能性も報告されている。誤作動による不要なアラームや、数値のわずかな変動に過剰に反応してしまうケースがあり、育児ストレスの増加要因ともなりうる。日本の研究では、育児不安がそれほどない保護者では、モニター使用により安心感が得られるが、不安の強い保護者では、モニター使用が不安の助長につながる傾向が認められた3)。
以上をふまえると、モニターやセンサーの使用はSIDS予防には寄与しないが、「安心感を得たい」という保護者の自然な感情は理解されるべきである。使用することを一律に否定するのではなく、「SIDS予防効果には限界があることを理解した上で、心理的な支えとして活用する」ことは、容認しうると考える。ただし、アラームの誤作動や、過信による育児判断の誤りといったリスクについて、事前に十分な説明と注意喚起を行い、人によっては、かえって不安が高まるケースがあることを伝える必要がある。科学的根拠に基づいたSIDS予防策を丁寧に説明した上で、乳児用モニター・センサーとの付き合い方を助言すべきである。
【文献】
1) Ward SL, et al:Pediatrics. 1986;77(4):451-8.
2) Moon RY, et al:Pediatrics. 2022;150(1):e2022057991.
3) Onishi R, et al:Children(Basel). 2023;10(9):1437.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][乳児用モニター][乳児用センサー]