No.5031 (2020年09月26日発行) P.60
塩尻俊明 (地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院総合診療内科部長)
登録日: 2020-09-08
最終更新日: 2020-09-08
総合診療における代表的スキルの一つは、「診断学」だと思います。患者からの問診を大事にするのはもちろん、かかりつけ医、家族、救急隊からの情報も合わせた病歴にこだわる事が診断の出発点かと思います。続く身体所見、血液検査、生理学的検査、画像が、その病歴と整合性があるのかどうかを考える事が極めて重要と考えます。どうしても我々は、CRPなどの血液検査、インパクトのある画像に引き込まれてしまいます。もちろんCRPは重要ですし、病歴や身体所見が吹っ飛んでしまうほど画像が決定的であることは少なくありません。そんな時でも、朴訥に病歴、検査、画像の整合性を意識した正しい手順に従ってこそ、非定型的な疾患であったり、似て非なるpitfall的疾患を見極めることができるようになるのではないでしょうか。
また、若い医師たちに、「常に過去の検証、現在の丁寧な評価、未来への予測」という言葉をよく投げかけています。過去の画像や検査を集めるという作業は当然かと思いますが、現在症状が軽快している場合や変化している場合でも、これまでの病歴と過去の検査、画像を丁寧に見直すことで、「過去の」解剖学的診断や病態生理を推測することが可能となります。「もともとそう、前からそう」と思い込んでいると、実はごく最近始まっていたことがわかり、現病を紐解く、いや診断する、とてつもないclueを発見できる経験をします。そして、現在の受療起点とは関連が薄い検査でも、すべて丁寧に解釈する。枝葉のことをどれだけ深堀するかは、診療上のバランスが必要ですが、過去との比較をし、現在を評価することで、「未来への予測」が可能となり患者の予後や方針が見えてくるのではないでしょうか。
「石橋を叩いて渡る」とのことわざがありますが、さらに「石橋を拭いて渡る」であってこそ、正しい診断、そして正しい医療が展開されると信じています。
塩尻俊明(地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院総合診療内科部長)[総合診療]