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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症と小児の全身性炎症症候群(MIS-C)」中川 聡

No.5032 (2020年10月03日発行) P.58

中川 聡 (国立成育医療研究センター集中治療科診療部長)

登録日: 2020-09-23

最終更新日: 2020-09-23

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海外では、新型コロナウイルス感染症に伴う小児の全身性炎症症候群が注目されている。multisystem inflammatory syndrome in children and adolescents(MIS-C)、またはpaediatric inflammatory multisystem syndrome temporally associated with SARS-CoV-2(PIMS-TS)と呼ばれる病態がそれである。一般的には、新型コロナウイルスに感染後(多くの場合は無症状のためコロナ感染に気付いていない)しばらく経過したのちに、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状や皮疹などが現れ、重症例では、ショックとなり集中治療を必要とする病態である。英国などの欧州で、今年4月半ばくらいから連続してこのような病態の患者が報告されるようになった。現時点で、欧米を中心に1000例以上の報告があり、この疾患の診断基準は、英国王立小児保健協会、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)から出ている。多少の差違はあるものの、この3つの診断基準に共通しているのは「小児で、発熱、炎症所見、多臓器にわたる症状、そして新型コロナウイルス感染を示唆する所見(PCR陽性か抗体陽性、あるいは濃厚接触歴)があること」である。中には、冠動脈瘤を発症することで川崎病との共通の病態を示唆する症例があるが、川崎病の好発年齢よりも一般に高年齢(中央値が8〜9歳)である。PCRは陰性だが抗体は陽性という患者が全体の半分以上を占め、新型コロナウイルスの直接の症状というよりも、感染後の生体の特異な炎症反応を示す病態として認識されている。

重症患者では、小児ICUに入室して、血管作動薬を用いた循環管理、さらには呼吸補助を必要とする。最重症例ではECMOを用いた症例もある。病態が十分に解明されていないため、確立された治療法はないものの、全身の補助療法に加え、川崎病に対して使用される免疫グロブリン療法が多くの症例で行われているようである。

海外の報告からは、発症に人種差があることが示唆されている。英国では黒人またはカリブ諸国出身者、米国ではヒスパニックか黒人に多く、東洋人には少ないと報告されている。現時点で筆者が知りうる限り、国内での報告はないが、このような人種的背景ごとの発生頻度が影響しているのかもしれない。しかし、わが国での発症の可能性も考え、情報収集を怠らないことが重要だと考えている。

中川 聡(国立成育医療研究センター集中治療科診療部長)[敗血症の最新トピックス⑨]

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