No.5036 (2020年10月31日発行) P.57
大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
登録日: 2020-09-29
最終更新日: 2020-09-29
患者は補完代替療法に何を期待して利用しているのであろうか? 癌患者を対象とした2つの実態調査から最近の動向について考えてみる
ひとつ目は2005年に報告された厚生労働省がん研究助成金研究班による日本で初めて実施された全国実態調査である1)。補完代替療法の利用者は44.6%(1382/3100)で、健康食品[漢方、ビタミン、ミネラル含む](96.2%)の利用が最も多く、次いで気功(3.8%)、灸(3.7%)、鍼(3.6%)であった。補完代替療法へ期待することとして、癌の進行抑制(67.1%)、治癒(44.5%)、症状の緩和(27.1%)、通常治療への補完(20.7%)が挙げられた。今から約20年前(2000年頃)、「がんに効く」とされる健康食品が花盛りであり、その影響を受けていたことが推測される。ただし、残念ながら、患者が期待するような効果が臨床試験で証明されていたわけではない。
ふたつ目は2017年に報告された日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団による緩和ケア病棟の遺族への自記式質問用紙調査(J-HOPE2016)である2)。補完代替療法の利用者は52.5%(237/451)で、内容はサプリメント(54%)、運動(39%)、マッサージ・骨格改善(36%)、温泉・温熱療法(29%)、マインドフルネス・芸術セラピー(27%)、食事療法(19%)、免疫療法・ビタミン療法(17%)、鍼灸(11%)と多岐にわたっている。補完代替療法へ期待(「とても期待」「期待」の合計)することは、精神的な希望(47%)、免疫力向上(43%)、苦痛症状緩和(40%)、病気の進行抑制(40%)、病気の治癒(22%)と様変わりしている。アンケート調査の対象や回答者が異なる点を考慮しても、患者や家族の補完代替療法に対する認識が大きく変化してきていると言える。また、精神的・身体的症状の緩和について半数以上の患者が効果を実感できている点も興味深い。近年、補完代替療法の有効性を示唆する臨床試験の報告が増加してきていることの証左かもしれない。
【文献】
1)Hyodo I, et al:J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-54.
2)鈴木梢, 他:Palliat Care Res. 2017;12(4):731-37.
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑩]