No.5036 (2020年10月31日発行) P.59
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2020-10-06
最終更新日: 2020-10-06
顧問先のクリニックから「未成年の患者さんが単独で受診された場合にどうすればよいか」というご質問をいただくことがあります。
もちろん、「治療内容等について親権者の同意をとる」というのが、原則です。しかし、「未成年の患者が単独で来院した場合は一切診察に応じない」というのは、非現実的です。コロナ禍の状況下においては、待合室での密を軽減する観点から未成年者のみの受診を勧めるべき場合もあると考えます。
やはり、患者の年齢や判断力、理解力に応じた対応をすべきでしょう。例えば、小学生以下の患者であれば、患者本人に、診察について親権者の同意を得ているかを尋ねたり、場合によっては電話で親権者に確認をとるといった対応が考えられます。一方、概ね中学生以上であれば、治療内容も十分理解可能と考えられるので、そこまで神経質になる必要はないと思います。
また、治療内容によっても対応は変わってくるでしょう。一般的な診察・処方であれば上記の対応で問題ありませんが、手術など身体への侵襲を伴う処置については、親権者の同意をとっておくことが重要です。よく問題になるのが、人工妊娠中絶です。親権者に知られたくないというケースも多く、クリニックとしては対応に悩むところでしょう。しかし、実は人工妊娠中絶における「本人の同意」(母体保護法14条1項)には未成年者が含まれると考えられています(同法3条1項の不妊手術に関しては「ただし、未成年者については、この限りでない」と規定し、「本人」に未成年者が含まれないことを明示していることとの対比です)。したがって、未成年者のみの同意でも母体保護法上は問題ないことになります。もちろん、後日のトラブルを避けるため、説明内容等については詳細にカルテに残すことが重要です。
緊急性の高い場合、手術について親権者の同意をとることができないケースもあると思います。後日、親権者が手術に同意せず、トラブルになることもあり得ますが、目の前の患者の生命身体を守るために行われた診療行為は、正当行為や緊急避難として適法とされることが多いでしょう。
ここでも、重要になってくるのはカルテの記載です。患者の状況やどのように緊急性を判断したのかという点については、なるべく詳細に記載しておくべきです。
以上のように、未成年者の診察は、ケースバイケースの対応が必要になってくる部分ですので、弁護士等の専門家に相談しつつ、可能であればマニュアル化していくことも有用です。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]