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【識者の眼】「ロコモ、フレイル対策こそ、超高齢社会の重要なテーマ」佐藤敏信

No.5036 (2020年10月31日発行) P.61

佐藤敏信 (久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)

登録日: 2020-10-26

最終更新日: 2020-10-26

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少し前の回(No.5011)で母の健康状態について書いた。要は特別な食習慣、運動習慣などの健康づくりなどはせず、むしろ常識とは反対の生活であったが、きわめて健康だった。しかし、それ以外の問題はあった。一つは、ケガであり、もう一つは記憶力、判断力の低下である。後者は別の機会に譲るとして、今回は前者について書いてみたい。

きっかけは、父が死んでしばらくして取り掛かった1階のフローリングの補修だった。ついでにエレベーターも設置することになり、工事はかなり大掛かりになった。母はこういう工事を見るのが好きで、何度も階段を上ったり下りたりして観察したという。工事現場にいた作業員によれば、それもかなりのスピードだったと。その結果、痛みが出て、膝を曲げて座ることができなくなってしまった。

当時は、独居となったばかりで、付き添って世話をする者がいないので、困ってしまった。考えた上で、比較的近くで開業しておられる鹿子生健一先生(鹿子生整形外科医院院長)にお願いすることにした。診断の結果は半月板の損傷だった。勢いをつけて下りていて、何度も強い衝撃が加わったのだろうということだった。関節鏡下で手術が必要ということになった。手術は成功し、1カ月ほどの入院の後、自宅に戻った。設置したばかりのエレベーターが役立つことになった。

膝だけでは済まなかった。もともとふらつきがあった。本人によれば、普通に立ったり歩いたりしていて、突然力が抜ける感じがするのだという。その後、朝起きた途端に、倒れて上腕を骨折してしまった。膝の手術以降、週2回、鹿子生整形のデイケアに通うようになっていたのだが、たまたまその日、デイケアの迎えに来た鹿子生整形の職員に「発見」され、入院となった。

母のように、内臓その他は全て問題なくとも、筋骨格系に障害が出ることはあるのだ。つまり人間だからどこかに「弱いところは」あるのだということを思い知らされた。観察していると、若い頃にできたから今もできるはず、との自信を持っているので、階段を勢いよく下りたりする。段差などで、しっかり足を上げたつもりでも、実際には上がっていない。また、ふらつく。これらが重なり合って、転倒する。転倒しそうになっても踏みとどまることができなくなるようだ。

超高齢社会においては、従来型の健診や健康づくりだけでなく、ロコモティブシンドロームやフレイルの対策が重要ということをしみじみと実感している。

佐藤敏信(久留米大学特命教授、元厚生労働省健康局長)[超高齢社会の保健事業 ]

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