No.5043 (2020年12月19日発行) P.54
岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)
登録日: 2020-12-03
最終更新日: 2020-12-03
厚生労働科学には政策研究と呼ばれる分野がある。文字通り、成果を医療政策に反映させることを目的とする研究であり、筆者の前任の国立保健医療科学院はまさにその「牙城」だった。厚生労働科学研究の報告書は科学院のデータベースで公開されるが、研究代表者には公開後も毎年「嫌な」メールが送られてくる。研究成果が政策にどれくらい反映されたか? の報告を求められるのだ。なぜ「嫌」かというと、研究者がいくら合理的な提言をしても、それが自動的に政策に反映されるわけではない。たとえ、反映されたとしても長い年月を要することもある。毎年メールを受け取る毎に、報告できる成果がなかったら虚しさだけが嵩じてしまう。逆に、多年を経て、かつて提案した政策が実現したとしたら、研究者としては最高の冥利である。
2022年度を目標に不妊治療の保険適用が検討されている。現在の公費助成制度は2004年度(当時の助成額は一件10万円、年齢制限なし)開始だから18年ぶりの見直しだ。さて、公費助成が開始された16年前、少子化対策としての不妊治療の将来の需要と効果について政策研究が実施された。当時研究官だった筆者も、将来の需要推計のための数理モデルを構築し、いくつかの政策提言をまとめた。年齢制限もそのひとつで、これは2016年度より導入された。
もうひとつは成功報酬制の導入である。ちょっと長いが報告書より引用する。「不妊治療の価格は公定価格として現在の相場より安く設定し、それを補うため成功報酬を導入する。妊娠出産(出生ではなく)一回につき10万円のボーナスを支払う[出生一人当たりにしないのは、もしそのような成功報酬を導入すると多胎妊娠を増やすインセンティブをはたらかせるおそれがある]。この額は医療機関の治療成績によって異なる。…成功報酬を導入することによって医療機関の技術の向上を促進し、効果的給付に結びつくことが期待される」
医療への成功報酬制導入は、治療効果すなわちアウトカム測定の困難がネックとなる。その点、不妊治療は成功失敗が治療周期ごとに明らかであり成功報酬になじむ。18年たって筆者は研究者冥利を味わうことができるだろうか?
【参考文献】
▶ 岡本悦司:不妊治療需要推計のモデル化と効果的な公費助成への提言. 厚生労働科学政策科学推進研究事業「少子化社会における妊娠・出産にかかわる政策提言に関する研究」(研究代表者:福島富士子)2004年度総括報告書57〜69頁.[https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=200400122A]
岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[政策研究]