コロナ禍で世界はさらに小さくなった。2003年のSARSは感染症の恐ろしさをまざまざと見せつけたが、東アジアとカナダに流行はとどまり、その17年後の今回は数カ月で全世界を不安に陥れた。人の往来の監視と管理、国際的なワクチン開発と供給、国民の社会生活と感染予防のバランスなど、グローバルな観点から健康政策を考える議論が世界中で巻き起こった訳だが、同時に国単位で何に取り組むべきかも明確になった。
日本では十分な専門医が養成されているとは言い難い感染症領域を、今後強化していくことは必須である。また、感染流行時に中等症から重症の患者の入院治療をいかに展開するか、地域の病院の役割を明確にしながら平時より備えておくことも大きな教訓となった。しかし、それだけではまだ不足している。新型コロナのような無症状あるいは軽症者も多数存在する感染症については、特にプライマリ・ケア医療の役割は非常に大きい。
高齢者や基礎疾患を持つ患者の重症化リスクは高いが、そうした高リスク群を平時に健康管理しているのがまさにプライマリ・ケア医療である。そして、感染した際に、健康時との全身状態の違いに早期に気づき、感染症に対応する二次医療機関との地域連携に基づいて速やかにつなぐことに長けており、診断からフォローアップまで責任を持って対応できる。今回の第1波の混乱の多くは、この機能をすべて保健所が担わざるをえない状況になったことに起因するだろう。
そのために必要な改革はかかりつけ医登録制度である。国民一人一人が普段健康な頃から自分の健康管理の基本を担う「かかりつけ医」を自由意思で選択する。元気な頃は感冒などの軽い病気や予防接種、健康診断で時折受診し、慢性的な病気を持ったら定期的に受診する。緊急時といえる災害時やパンデミックでも国民はまずかかりつけ医に連絡や相談をし、かかりつけ医もそれに応える義務を持つ。もちろん、かかりつけ医の質保証のあり方やフリーアクセスとの整合性など課題も多い。しかし、医療の基盤であるプライマリ・ケアを再構築するのは今しかない。