筆者らは急死例の原因究明を行っていますが、一見、元気にみえた人が急激に体調を悪化させて死亡することがあります。多くは心・大血管や脳血管疾患が原因ですが、感染症で急死することもあります。その原因疾患のひとつが壊死性軟部組織感染症です。
この疾患は、皮膚、皮下組織、筋膜および筋肉の感染症ですが、致死率が16~24%と高いのが特徴です。原因菌が複数であることが多く、初期には広域抗菌薬が使用される傾向にあります。四肢に多く発生しますが、救命のために切断を余儀なくされることがあります。
壊死性筋膜炎は皮膚の膿瘍や蜂窩織炎と診断されがちですが、浅在性の筋膜に感染が及びます。特に「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型A群β溶連菌によるものです。突発的に発症し、急速に敗血症から多臓器不全に進行します。初期には皮膚の発赤、腫脹、水疱がみられ、四肢の疼痛などがありますが、このとき既に深部の軟部組織感染が生じています。そして、急激に敗血症に至り、ショック状態となって死亡します。
死亡率は約30%と言われています。救命のためには、早期に皮膚切開とデブリドマン、抗菌薬投与が必要です。
ガス壊疽は、ガス産生菌による進行性の軟部組織感染症です。原因菌によってクロストリジウム性と非クロストリジウム性に分けられます。
クロストリジウムの潜伏期は6時間~2日と非常に短いので、クロストリジウム性のガス壊疽では、激しい疼痛と腫脹が劇的に進行します。皮膚の水疱形成と壊死が特徴で、X線でガス像を認めます。早期にデブリドマンを行えば切断を免れることができ、不幸な転帰を回避できます。
非クロストリジウム性のガス壊疽では、大腸菌、嫌気性のレンサ球菌、クレブシエラなどが起炎菌になりますが、比較的緩徐に進行します。初期の症状は蜂窩織炎と同様に皮膚の発赤、熱感、浮腫ですが、皮下から筋膜での感染が進行すると、予後は不良です。救命のために切断となることが多く、ほとんどの場合、糖尿病、悪性腫瘍、肝硬変などの基礎疾患を有しています。
壊死性軟部組織感染症例を検討した報告によると、感染部位としては下肢が約半数を占め、会陰部、臀部、上肢と続きました。炎症とともに軟部組織の破壊がありますので、血清のCK値が調べられていましたが、来院時の血液検査で血清CK値が上昇していたのは31%にすぎませんでした。しかし、65歳以上の高齢者が68.2%を占め、糖尿病を合併していた人は46.9%でした。
特に外傷の既往がない高齢の糖尿病患者は多くみられ、そのような人が、下肢の皮膚の痛みや発赤・腫脹を訴えて来院することがあります。多くは蜂窩織炎と診断されると思いますが、中には今回のような壊死性軟部組織感染症のことがあります。
急速に進行して敗血症性ショックになると、不幸な転帰をたどります。遭遇する頻度は高くはありませんが、このような疾患を念頭に置くことが重要です。