No.5048 (2021年01月23日発行) P.61
南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)
登録日: 2020-12-24
最終更新日: 2020-12-24
中国から新婚旅行で来日した30歳前後の夫婦。ご主人が当院近くの路上で歩行中にトラックにはねられ、全身を強打して意識障害で搬送されてきた。検査にて、急性硬膜外血種、頭蓋底骨折、脳浮腫、多発肋骨骨折、右肺挫傷、気胸が判明した。「意識が清明でないため脳の損傷の程度は不明で、今後意識が戻らない可能性もある」と医療通訳者を介して医師に告げられた新妻は、一人でたいそう不安だっただろうにショックが大きすぎたのか、気丈に振舞っていたのか、終始取り乱すことなく医師の説明を静かに聞いていたのが印象深かった。
予断を許さない日々が続いたが、患者の両親が来日し新妻も少しホッとしたに違いない。当初患者は気管挿管されていたが、胸腔ドレーンにて3日目に気胸が改善し、5日目には人工呼吸器が外れた。抜管後数日で患者の意識は完全に戻り、奇跡的にも神経学的所見に異常はみられなかった。患者は家族と普通に話せるようになり、車椅子に座って移動もできるようになった。搬送時の状態を考えると、短期間で劇的な回復だった。
患者は旅行保険に加入しており、医療費は高額となったが保険で全てカバーされた。当時はまだ日本への入国ビザを富裕層しか取得できなかった時代で、若い夫婦だったが補償額が十分な保険に加入していたと考えられる。患者は2週間半で退院可能となり、中国に戻って治療を続けることになった。
それから8年経ったある日、中国から国際診療科に突然メールが届いた。つたない日本語をわびながら「前に大阪へ来た途端に交通事故にあった。大けがをした。貴院の医師と看護師の緊急治療と看護してくれたおかげ、ありがとうございました。来月夫と一緒に子供を連れて日本に行くので皆様と主治医の先生にもう一度会いたいです」と書いてあった。そして夫婦は女児を連れて現れ、当時の病院スタッフと話して一緒に写真を撮った。私たちにとって感無量の一時となったことは言うまでもない。
南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]