1年ほど前から、淀川に新たに橋を架け、新名神高速道路を延伸する工事が進んでいます。河川敷の遊歩道を散歩して工事現場を見渡せる場所にくると、いつの間にか畑だった場所や川辺の葦原が徐々に整地され、鉄塔に電線が張られ、淀川の中に橋梁が建てられていく様子が目に入ります。すべて緻密に計算された上で工事が進められているのだろう、プロジェクトの設計者はすごいな、と思いつつぼんやり眺めているとき、医学生の頃、大学の医師に言われた言葉をふと思い出しました。
ポリクリの終わりに、指導医はこう言ったのです。「君たち、何で医者になろうなんて思ったんや? 医者なんて男子一生の仕事やないで。秘境にダムをつくったり、瀬戸内海に橋を架ける、そういうのが男の仕事や」。
男子一生の仕事って、もはや死語かもしれません。今なら性差別だと言われかねませんね。もっとも当時、同級生100人のうち女性は4人だけでした。それはともかく。その時は、これから医師をめざす学生になんてこと言うんや、このおっさんは、と腹立たしく思ったものでした。あれから40年。あの時の医師の年齢をとっくに追い越してしまった今になると、おそらく当時の白い巨塔の中で不遇をかこっていた医師が、近くにいた学生相手にちょっと愚痴をこぼしただけのことで、さして深い意味はなかったのだとわかるのですが。
長らく忘れていたこの何気ない言葉を思い出したのは、秋の青空の下、今後100年以上は残るであろう建築の基礎工事をみながら、そろそろ老年期に入りつつある自身を省み、この先も形あるものを残せることはないだろうという淡い寂寥感だったのかもしれません。