2020年はベートーベン生誕250周年でした(1770年12月生まれ)。本来であれば、全世界で、彼が作曲した曲が演奏されているはずでした。しかし、コロナ禍の中、予定されていた音楽会は、ほとんどが予定通りとはいかなくなりました。ベートーベンの音楽といえば、苦しみから歓喜を著す音楽として有名です。その背景には、音楽家としては、致命的な聴力を失うという病にありました。その苦しみとは、絶望の真っ暗闇であったことでしょう。そのことは、弟たちに宛てたハイリゲンシュタットの遺書と呼ばれる手紙に、その苦悩ぶりが書かれています。
「死は終わりなき苦悩の状態から私を救い出してくれるのではないか」
彼から学ぶことは、この絶望の中にあって、希望の光を見出したことです。その源は、神様が彼に与えた芸術というギフトでした。ただ芸術だけが私を引き留めてくれた……と。そして、それまでの音楽史を塗り替える交響曲第3番「英雄」の作曲に取りかかります。ベートーベン生誕250周年の2020年がコロナ禍で全世界の国民が苦しむことは、真の歓喜を得るための序章なのかもしれません。
私は、ホスピス病棟に12年間従事した後、在宅緩和ケアを専門に仕事をしてきました。多くの人の人生の最期に立ち会う中、本当の幸せとは何かを考える場面に遭遇してきました。
本当の幸せとは何でしょう?
健康なときには、幸せとは、病気やケガが回復することと思うことでしょう。しかし、医療の現場で学ぶことは、どれほど医学が発達しても、すべての病気やケガを治すことはできないという事実でした。
苦しみがあれば、幸せになることはできない、という固定観念を壊したいと思います。ベートーベンの交響曲第9番第4楽章は、第1楽章から第3楽章の主旋律の否定から始まります。そして、有名な歓喜の旋律が始まります。
苦しいからこそ、あたりまえの大切さが幸せに感じます。
苦しいからこそ、幸せはすぐ隣にあることに気づきます。
新しい年が、苦しいからこそ、幸せはすぐ隣にあることに気づく年になることを願います。