2019年10月15~19日、ドイツのハイデルベルク大学血管外科のProf. Dr. Dittmar Blöcklerが学会長として、ハイデルベルク近くのマンハイムの国際会議場で第9回三国(ドイツ、オーストリア、スイス)国際血管外科学会が開催された。私はProf. Dr. Böcklerがハイデルベルク大学の教授になって以来の友人でもあり、2~3年前から国際血管外科学会をやるので必ず出席してほしいという要望があったので、この度出席した。現在、彼はドイツ血管外科学会の会長もしているので、第35回ドイツ血管外科学会と第9回三国国際血管外科学会を合同で行った。
マンハイムにはハイデルベルク大学の分校があり、医学部を含む立派な学部もある大学都市であり、私の知人も多くおり、工場地帯でもある。この地区の中心地はMannheimer Wasserturm(マンハイムの給水塔で、2000Lの給水が可能)で、ルイーゼ公園が大きく広がる癒しのある憩いの場所となっている。このWasserturmから歩いて5分のところに、われわれが宿泊したDorint Hotelやマンハイム中央駅があり、その裏手に立派なコングレスホールがホテルと隣接していた。
学会での公用語はもちろんドイツ語で、私もドイツ語で講演を行った。1人15分のスピーチで多くの質問を受け、これに対して的確な返答をした。この国際血管外科学会には、ドイツ血管外科学会から約800人、演題336題(85.5%)と最も多く、次いでオーストリアの血管外科学会から約200人、演題24題(6.1%)、スイスの血管外科学会から約80人、演題18題(4.6%)、この他に諸外国からの演題15題(3.8%)、総計393演題であった。今回、ドイツからの演題数が多く集まったのは、第35回ドイツ血管外科学会とジョイントして開催されたこともあったが、やはりProf. Dr. Böcklerの活躍が著しく優れているということにあった。ちなみに、わが国の血管外科学会の会員数は3750人でドイツの会員数よりも4.7倍も多いが、これは単純には比較できないし、これほど多くの演題は集まらないものと言えよう。
この国際血管外科学会は、3年に1度廻ってくるのでそれほど大変な負担になっていないが、85.5%の演題数を集めようとすれば、懸命に努力しなければならない。今回はProf. Dr. Böcklerが三国国際血管外科学会会長であったが、オーストリアの血管外科学会会長はDoz. Dr. Afshin Assadian、スイスの血管外科学会会長はDr. Luca Giovannacciであった。いずれの会長も精力的な感じであったが、中でもProf. Dr. Böcklerは比較的若く見えて、きわめて積極的であるように感じられた。この国際血管外科学会のモットーは、“Kompetenz Entscheidet”というもので、とにかく「結末をはっきりさせよう」とするものである。これが今回のプログラムの表紙にもなっており、プログラムは258頁の厚さであった。
プログラムを紐解くと、10月15日は10会場で腹部大動脈、頸動脈、下肢末梢動脈などに分類されていた。16日は5会場で頸動脈狭窄、大腿動脈の再建などのセッションがあった。特に頸動脈狭窄の場合に、血行再建術を行うのかどうかを決定する場合、反対側にも優位の狭窄病変が存在するかにより、安全策をとり血行再建術を行うと結論されるようであった。それ以外は、血管内治療法(CEA、CAS)が選択されていた。17日は3会場でEVERの演題が行われた。これに関しては、テクニックが問題視されており、技術的には無理をしても遠隔期には問題はないようであった。18日は8会場で胸部大動脈瘤、血管内治療などが開催されていた。特に、胸部大動脈瘤では、外科手術の他、ステントグラフト内挿術などの血管内治療法などが可能なのか、具体的な観点から意見が交わされていた。19日は4会場でリンパ管や急性ないし慢性の下肢動脈虚血などの演題が発表された。この学会でもすぐには指や足趾など、また下肢の切断は容易には認めていないようであった。あくまでも切断を何とか予防しようという雰囲気がうかがわれた。座長は2人で行われ、無駄な質問はみられなかった。血管外科関係の演題が至るところにみられ、すべてを網羅しており、三国国際血管外科学会は無事終了した。
最終日の19時30分から、ラーデンブルクの“Eichenstolz”というところでの会員懇親会に約100名が参加した。この建物の2階で行われたが、三国国際血管外科学会に出席された重鎮の姿が多数みられ、ここでの懇親会は最も意味のあるものであった。座ってフルコースを食べた後は、楽団の音楽に乗って広い大ホールに行く姿がみられた。このような姿は、ほのぼのと和やかに感じられた。
2020年はコロナ禍のために、世界的にみてほとんどの学会は中止あるいはWeb会議となっており、このような学会が2019年の開催で良かった、とつくづく思った。