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奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.100

川真田樹人 (信州大学医学部附属病院病院長・麻酔蘇生学教室教授)

登録日: 2021-01-05

最終更新日: 2020-12-28

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10月は科研費申請や海外学会があり多忙な季節である。にもかかわらず、山の紅葉のピークは10月の2週間と短い。そこで例年、無理やり忙中閑をつくり、紅葉を見る登山に行っている。長野県に住んでいると、北アルプス、南アルプス、中央アルプス、八ヶ岳などの登山口までが近く、天気予報をにらみながら、当日、どこに登るかを決めることができる。

昨年は前日の大雨にもかかわらず、白馬方面が快晴になると予想し、雨飾山(1963 m)に決めた。朝6時前に登山口に着いたが、既に駐車場は満車で、路肩に数珠状に駐車している車の群れに、かろうじて滑り込むことができた。札幌、福島、多摩、横浜、名古屋、京都、神戸、姫路、鹿児島と、紅葉を見るために全国から集まった車が勢ぞろいである。10月中旬の土・日が、最も登山客が多いらしい。確かに、頂上までの最後の登りでは、中高年登山客で大渋滞していた。

紅葉の森林の中を歩くと心が落ち着く。木々は秋になり気温が下がり日照時間が短くなるにつれ光合成が低下する。そこで活性酸素が生じると、植物の葉緑体の緑色のクロロフィルが分解され、赤色のアントシアニンが合成され、黄色のカロテノイドが目立つようになる。これが紅葉の機序で、植物の老化現象とされている。紅葉を見る者に、哀しさとともに深遠な意味を感じさせるのは、植物の老化に自分の人生を重ね合わせるせいかも知れない。私たちは中高年になって、紅葉をより身近に感じるようになる。タイトルの一句は、私が最近最も好きな百人一首の歌である。

人生100年時代に入り、人生における紅葉以降の、健康の維持と増進が医療の最大の課題となった。紅葉をマイナスにとらえるのではなく、プラスにとらえるべきであろう。そういえば、クロロフィルが分解され合成される赤色のアントシアニンには、抗酸化作用があり、植物の傷害を予防するらしい。秋に葉が赤くなればなるほど、春の新緑が強まり生命力が向上するということか。これからも毎年、紅葉登山でリフレッシュして、自分の心身の健康を維持したいと思う。

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