株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「フレイル対策とその重要性」小川純人

No.5054 (2021年03月06日発行) P.67

小川純人 (東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)

登録日: 2021-01-21

最終更新日: 2021-01-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最近、フレイルが様々な領域で注目されてきているが、その概念については「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡等の転帰に陥りやすい状態」とまとめられている。わが国において、介護予防の推進や健康寿命のさらなる延伸を目指す上で、フレイルの評価および適切な介入は一層重要になってきており、2020年度から全国で始まっている、いわゆる「フレイル健診」もその一つである。実際、フレイルな高齢者では生活機能障害、施設入所、転倒、入院をはじめとする健康障害を認めやすく死亡割合も高くなることが知られており、フレイルに関する評価は、高齢者に対する包括的医療やケアを行う上でも重要な概念と考えられる。最近の新型コロナウイルス感染症の流行下では、「3密」を避けるなど十分な感染対策を講じる必要があることは言うまでもないが、その一方で感染を恐れるあまり外出を控えすぎるなど、特に高齢者において生活不活発や自粛生活に伴う健康への影響やフレイルの進展が危惧される。 そのため、フレイルの発症・進展予防に向けて、運動(テレビのコマーシャル中に足踏みするなど) 、栄養(三食バランスよく摂取するなど)、口腔ケア(毎食後・就寝前の歯磨き、義歯の清掃、電話、早口言葉、鼻歌など)、人との交流・支え合い(挨拶、電話、情報共有など)といった、自宅でもできる対策を具体的に指導することも重要になってくる。

こうしたフレイルの概念には、高齢者の身体的側面に加えて、精神・心理的側面、社会的側面も含まれていると考えられるが、Friedらによる指標では身体機能の表現型を主軸とした定義がなされている。そこでは体重減少、主観的な活力低下、握力低下、歩行速度低下、活動度低下からなる5つの症候が抽出され、このうち3つ以上該当した場合にはフレイルと定義づけられている。また、筋力低下、低栄養、活動度低下など、フレイルの各指標や要素が互いに悪循環、連鎖を形成する可能性も示されている(フレイル・サイクル)。今後の老年医学をはじめとした学際的研究を通じてフレイルの発症・進展に関する解明が進み、その予防・診断・治療法の確立に向けた展開が期待される。

小川純人(東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)[老年医学]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top