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【識者の眼】「コロナ禍における医学教育─“現場の声を聞くこと”こそ積極的に取り入れるべき」片岡仁美

No.5051 (2021年02月13日発行) P.58

片岡仁美 (岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)

登録日: 2021-01-25

最終更新日: 2021-01-25

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昨年はコロナ禍で社会の在り方も大きく変わった1年であったが、年が明けても感染拡大はとまらない。医学教育も大きな影響を受け、変革を迫られた。特に「学び」の観点から考えると最も影響が大きいのは学生であろう。対面講義はすべてオンラインとなり、1年生に至っては入学以来クラスメートと顔を合わせることもできない状況が続く。教育のオンライン化による影響については様々な論文が出されているが、我が国の現状については日本医学教育学会の学会誌「医学教育」の特集「パンデミック下の医学教育─現在進行形の実践報告—」(2020;51〔3〕)にコロナ禍において各大学や病院でどのような実践を行っているかが如実に記されている。知識習得に関してはオンライン教育、遠隔教育によってむしろ学習効果が向上することを示す見解も多く示されている。我々も対面授業よりチャットを使うと質問や意見が出やすいということ、グループワークもオンラインで行うことは思いのほかハードルが低いことを実感している。

一方、上記特集号の地域医療実習・研修を受け入れている現場の発信からは「地域を守ること」と「医学教育」のせめぎ合いの現状もうかがえた。地域医療実習では、現場で学ぶことが重視される。本学では地域の医療機関に御協力を頂き、例年と時期をずらしたものの2020年8〜10月に1、3年の学生計130人がそれぞれ1週間ずつ地域の医療機関で経験を積ませて頂いた。学生にとって素晴らしい機会となったが、地域の医療機関に負担を強いてしまうリスクもある。リアルな経験をいかに双方に安全に提供するかを模索する必要がある。そのヒントは学生が「現場で何に心を動かされるのか」ということではないか。これまで10年間地域医療教育を担当してきたが、学生が地域医療実習で学ぶことは医学知識のみならず、現場で働く方の生き方であり、生きた言葉であることを実感してきた。そして、それらは対面で聞くのがベストではあるが、オンラインでもある程度カバーできるのではないだろうか。

コロナ禍で、オンライン会議に慣れた我々は対面でなければできないと思っていたことの多くがオンラインで可能であること、また、時間と空間を簡単に超えられるメリットはむしろ地域でより大きく感じられることを学んできた。「現場の声を聞くこと」こそ、新たな医学教育に一層積極的に取り入れるべき内容ではないだろうか。

片岡仁美(岡山大学病院ダイバーシティ推進センター教授、総合内科・総合診療科)[オンライン]

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