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【識者の眼】「アンチ・アンチ予防接種」紅谷浩之

No.5056 (2021年03月20日発行) P.58

紅谷浩之 (医療法人社団オレンジ理事長)

登録日: 2021-02-18

最終更新日: 2021-02-18

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予防接種をしない人たちがいる。背景にあるのは科学的に間違った判断である。中には子どもに接種をさせない親もいる。罪のない子どもが被害者になる。正義感溢れる医師にはネガティブな感情がわく。アンチ予防接種の存在を否定する、いわばアンチ・アンチ予防接種だ。

筆者は在宅専門医である。生活の場での診療を通して、価値観の違いを受け入れる努力を続けている。患者の希望が医学や社会の常識から外れていても、無理に説得せず思い切って受け入れる。そうすることで、良好な関係を作れる経験をしてきた。同時にネガティブな感情がわいた際の対処法も身につけた。そうした感情は自分の中にある常識と違うものに出会った時の反応であり、表情や態度に出る前に自分で気付くことが大事だ。その上で、視野を広げ、成長できるチャンスだと考え、対話を重ねたい。

最近になってアンチ予防接種と呼ばれる人たちと話す機会を増やしている。接種しないことで医師や保健師に怒られた経験をしている人も多い。先日、外来診療とは別に「ワクチンお話会」を企画した。お茶を飲みながら普段気になっていることを気兼ねなく話してもらった。接種に伴うリスク情報が巷に流れる一方で、接種すべきという側からの説明は不足している。聞けば、どうしていいか分からず不安だったという。不安や迷いの深さ、困り具合は人それぞれ違う。赤ちゃんへの注射はかわいそうだなと思った親が最初の予防接種を逃してしまう。相談しようと意を決して訪れた小児科や保健センターで、時には上から目線で叱られる。さらに医療機関から遠ざかる。そして、情報を求めて辿り着いたWebサイトで予防接種に対する多くのネガティブな意見を目にする。

正しい情報を基にもっと安心して相談できる場が必要だ。少なくとも予防接種をしない選択をした親はよく考えている。アンチ予防接種という括りでひとまとめにせず、対話する姿勢を忘れないでおきたい。

紅谷浩之(医療法人社団オレンジ理事長)[小児の定期予防接種]

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