No.5055 (2021年03月13日発行) P.61
並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)
登録日: 2021-02-25
最終更新日: 2021-02-25
先日(2021年2月13日)、福島県沖を震源とした比較的大きな地震が起こりました。これは10年前に起きた東日本大震災の余震とのことです。大震災において、災害医療としての救急医療で漢方が有効だったことを、東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科の高山真先生らが中心となって示してくれたので、今日は災害医療としての「漢方」の役割をご紹介します。
ここでいう漢方とは、漢方薬のほか、鍼灸治療や指圧の施術も含まれており、被災地では理学療法も併用して治療に当たったということです。その際、既往歴に西洋薬が処方され、さらにそれ以外の主訴にも西洋薬等が既に処方されていたものの、症状が遷延していた方も多数いらっしゃったとのことです。興味深いことに、被災者の医療の需要は、災害から時間が経つと変化し、それに対して頻用される漢方薬の処方も変化したようです。震災から2週間までは低体温や感冒、胃腸炎が多く、体を温めたり急性・偶発の症状に処方がされています。2〜6週間は、被災地は埃が舞うような環境になったため、アレルギー症状や呼吸器症状に対する処方が多く、さらに6週以降は、避難所生活でのストレスが増大して感情面や不眠などの精神症状に対する処方が多くなったとのことです。特筆すべきは高齢者が睡眠導入剤を使用すると、余震の避難などで転倒する危険性がありますが、漢方薬は軽い鎮静作用程度ですので、転倒の危険性はなく大変有用だったとの報告です。また、理学療法の施術は、長期の避難生活による疼痛性疾患の治療に活用されました。さらに読者の皆様に知っていただきたいことは、多くの鍼灸師や按摩指圧の施術師がボランティア活動をしていたことです。
大地震発生後の漢方使用を紹介したこの論文は、意外な国際的な影響もありました。やはり地震の多い台湾の伝統医学関係者に読まれ、かの地での伝統医学使用の参考にされ、感謝されたといいます。
災害時の困難な状況においても、統合医療として最大限の活用がされ、災害医療に貢献できることが証明された事象でありました。なお、具体的な個々の処方は文字数の関係で割愛しますので、文献を参考にしてください。
【参考文献】
▶高山 真, 他:日東洋心身医研会誌. 2012;27:19-22.
▶Takayama S, et al:Integr Med Insights. 2012;7:1-5.
▶Takayama S, et al:Am J Chin Med. 2017;45(7):1345-64.
▶Miwa M, et al:J Gen Fam Med. 2017;19(1):15-9.
並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[東日本大震災]