No.5061 (2021年04月24日発行) P.58
土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)
登録日: 2021-03-25
最終更新日: 2021-03-25
先日、日本医師会や東京都医師会で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策におけるオンラインシステムの利用に関する講演を行った。その中で濃厚接触者を複数のオンラインシステムを用いて経過観察した自院の事例を報告したので、これについて少し述べたい。
発熱で入院しCOVID-19と判明した入所者のいる施設で、同フロアの他の入所者8名全員が濃厚接触者となったため、介護職員以外のフロア立ち入りを禁止。そして濃厚接触者となった入所者全員の病状観察のため、東京都が宿泊療養でも用いているバイタルデータ共有システムを用いて日々のバイタルデータを入力してもらい、自院で発熱者の有無などを確認。定期の診療には介護職員の補助のもとでオンライン診療を行い、その間の日常の情報共有には、普段から施設職員や訪問看護師との連携ツールとして利用している多職種連携システムを用いた。
経過観察中に3名の発熱者がおり、適宜電話での指示や多職種連携システムでの情報共有を行い、そのうち2名はほどなく改善。しかし1人はSpO2の低下も見られたため電子聴診器を利用した遠隔聴診および聴診音の解析を行った。経過中の抗原検査やPCR検査では陰性となっていたが、最終的にはSpO2の低下や肺雑音の増悪がみられたため入院となり、病院でのPCR検査陽性や胸部CTでの特徴的な肺炎像があることを地域医療連携システムで確認した。
このように複数の濃厚接触者の経過観察、うち1名については診断確認までをすべてオンラインシステムを利用して行った。利用したシステムはすべて、もともと自院で導入していたものであったため追加費用はなく、介護職員によるデータ入力の手間など課題はまだ多くあるが、オンラインシステムのみでもここまでできるということを経験した事例だった。
オンライン診療は「対面診療の補完」というのが現在の日本医師会の考えで、急速に拡大するオンライン診療を慎重に進めていくためにも、今はこの考えは必要であると思われる。一方で、今回の事例のように複数のシステムを組み合わせることで、オンラインでの診療の幅がひろがり、できることが多くなってくると私は考えている。近年様々なオンラインシステムが利用できるようになってきた。これらを組み合わせることで今後は「対面診療の補完」から「新たな診療形態」へと変わっていくだろうと、かかりつけ医として感染症対策を行う中での期待は高まっている。
土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[オンライン診療]