No.5060 (2021年04月17日発行) P.62
志馬伸朗 (広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学教授)
登録日: 2021-03-31
最終更新日: 2021-03-31
日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)が発刊された1)。頁数399に及ぶ超大作であり、敗血症をキーワードに、集中治療のコア部分をほとんどカバーした内容である。このうち“小児”のパートが13のCQ/35頁で、全体の9%を占めている。しかしその内容はやや失望的ともいえる。いわゆるガイドライン作成の標準的手法としての、複数のランダム化比較試験を用いたシステマティックレビュー/メタ解析に則り、エビデンスの質と確からしさを吟味して推奨を出すという形がとられたCQはわずか(血糖および輸血の項目くらい)なのだ。
このような状況が生じる背景には二つの現象が存在する。一つは、小児敗血症の死亡率は9〜20%で、成人敗血症の概ね半分と低いこと(つまり、試験により“有意な”介入効果を得ることが難しい)2)。もう一つは、小児敗血症の発生率は成人に比べて低く、特に先進国における市中発症敗血症の発生率の低下が著しいこと(つまり、研究企図そのものが難しい)である。特定の微生物(肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌など)に対するワクチンの普及が、この傾向に拍車をかけていることは疑いがない。
特に死亡率というハードな転帰を設定した小児敗血症に関する介入試験は先進国でもはや行うことが困難と言えるだろう。輸血や血糖は、介入のしやすさにおいて例外的な存在であったとも解釈できる。
今後、小児敗血症関連の介入試験は低〜中所得国においてのみ可能だろう。そしてこれらの介入試験において、①転帰指標として死亡だけではなく、コアアウトカムセット(特定の分野におけるすべての臨床試験において、最低限測定・報告すべきと合意されたアウトカム)3)を導入することにより、アウトカム評価や統合解析を容易にする工夫を行うこと、②医療資源や背景の異なる現場でのエビデンスに対して、非直接性によるグレードダウン(のみ)で対応することについて再考の余地がないか考えること、が必要だろう。
決して現状に失望するだけではなく、よりよい科学を探究し続けることが、次世代に引き継ぐべき課題と思っている。
【文献】
1)日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会:日集中医誌. 2021;28 Suppl:S1-399.
2)Fleischmann-Struzek C, et al:Lancet Respir Med. 2018;6:223-30.
3)Core Outcomes and Measurement Set(COS and COMS)for Pediatric Critical Care Medicine (PCCM)
[https://www.comet-initiative.org/studies/details/1131?result=true&result=true]
志馬伸朗(広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学教授)[敗血症の最新トピックス⑭]