No.5060 (2021年04月17日発行) P.58
和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
登録日: 2021-04-02
最終更新日: 2021-04-02
まん延防止等重点措置(以下、重点措置)が初めて適用されようとしている。特徴として、区域と期間などを定めることになるが、これがなかなか難しさをはらんでいる。
一方で、重点措置では「地域」を明確に絞り込む対策が可能となるため、これまでのように不必要に都道府県全土を対象にするよりは合理的ではある。1年を経て、さらに我々には、難度が高い「応用問題」が求められている。
これまでは、都道府県ごとに感染者がモニターされていることが多かったが、今後は、保健所の管轄地域ごとにHER-SYSデータなどを基に国としてもモニターする方向性も聞こえてくる。
都道府県の中のどのあたりで感染者が増加しているのかを示すようにしていた都道府県はこれまでもあったが、その情報がうまく活用できていないところも多かった。おそらく、その地域の名前を出すことで地元から反発があったり、差別や偏見につながる可能性があったからであろう。例えば東京都を見ていても、ある区で感染が下火にならない際に、当該区が市民にそれを示して呼びかけている様子は、少なくとも筆者にはあまり見えなかった。
今回の重点措置の対象地域は、重点措置で定められている対策だけをやれば感染が収まる状況では既になく、接触機会を減らしていただくような呼びかけも同時にしていかなければ感染を抑えることができない。そのためには、都道府県と対象地域の自治体との協働が必要である。中には、「どうしてうちの地域が対象ではないのか」といった要望が市町村から都道府県になされることもあるだろうし、意見が異なった場合にはメディアを通して対立が演出されることもありえる。さらには「後手」とも捉えられかねないとなると、どんどん対象地域の範囲が広がることにもなりかねない。
特に、首都圏は通勤などの移動距離も長いことから、その範囲の規定などは相当に難しそうである。今回の運用から教訓を得つつ、機動的にと頭ではわかるのだが、地域での無用な対立を生まないように、そして、差別につながらないように、市民の意識にも配慮しながら、この重点措置を効果あるものとしていかなければならない。
また、重点措置は「まんぼう」ともよばれ、優雅に泳ぐ魚をイメージすることもあるが、実際には緊急事態宣言の地域版と思って対策を進め、全国的な緊急事態宣言はできるだけ回避したい。
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス対策]