No.5061 (2021年04月24日発行) P.63
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-04-05
最終更新日: 2021-04-14
「会社の内部情報を利用して、株取引において利益を得ること」については、いわゆる「インサイダー取引」として、金融商品取引法によって規制されています。株式投資をされている先生方は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
インサイダー取引を行った場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または、これらが併科されます(併科とは、懲役刑と罰金刑が両方科せられるという意味です。金融商品取引法197条の2第13号)。また、インサイダー取引によって得た財産は、原則として没収されます(同法198条の2第1項1号)。
罰則もさることながら、やはり報道による風評被害はかなり大きいでしょう。インサイダー取引は、典型的には会社内部の関係者が「会社の重要事実(株式の募集や業務提携など)」を利用して株式の売買を行うことですが、会社関係者から重要事実を伝えられた「情報受領者」が、その会社の株式を売買した場合にも規制対象となります。
例えば、製薬会社の担当者から新薬の発表や会社同士の業務提携の話を聞き、公表前に、この会社の株式の売買を行ったというケースは、インサイダー取引になります。製薬会社等の情報に触れる機会の多い先生方にはぜひ注意していただきたいと思います。最近でも「東証マザーズ上場の製薬会社が他社と業務提携を行うという情報を利用してインサイダー取引をしたとして、証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反容疑で、岡山県の70代の男性医師に対して、課徴金計2820万円を納付させるよう金融庁に勧告した」というニュースが報道されています。たまたま知った情報を利用して株式の売買をしただけでも、インサイダー取引になってしまいます(「うっかりインサイダー」などと言われることもあります)。そのような規制を知らなかったとしても、罰則を受けてしまいますので、注意が必要です。
企業情報を取り扱うことが多い弁護士の中には、インサイダー取引の疑いをかけられないよう、クライアントや関係先の株式を保有しないという人も多いです(株式投資自体をしないという人さえいます)。
「リスクを知り、適切に恐れる」ことが重要でしょう。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]