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【識者の眼】「親に告知の通訳をためらった中国人女性」南谷かおり

No.5061 (2021年04月24日発行) P.61

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2021-04-06

最終更新日: 2021-04-06

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2020年1月に娘を訪ねて来日した70代中国人女性。短期滞在の予定だったがコロナ禍で帰国できなくなり、娘も妊娠中に卵巣癌が発覚して治療を始めたさなか、胃痛で当院を受診したら十二指腸癌が見つかった。娘は日本語が上手で母親に付き添い通訳していたが、念のため当院の医療通訳者も同席させた。母親は告知を希望すると言っていたので医師は癌であることを伝えたが、娘は母親に真実を告げずに心配ないと説明した。医師には娘が中国語で話した内容は解らなかったが、当院の医療通訳者が気付いてすぐさま医師に目配せした。そこで医師が内容を再確認すると娘もようやく癌であることを告げたが、余命1年に関しては「1年、2年、いや3年かもしれない」と咄嗟に付け加えた。

病気で厳しい宣告をする場合、家族では精神的負担が大きいため中立性を保てる第3者が通訳する方が望ましいと通訳倫理では言われている。冷静さが求められる場合、医師も身内の生死に関わるような手術は行わないことが多い。しかし、異国の地で不安を抱えながら支え合っている家族の一大事に、身内の助けになれないのはさぞかしもどかしいであろう。このケースの場合、当院の医療通訳を使うほうが医療者は安心できるが、強制的に介入させて患者と家族の間に割り込むような事ははばかられた。結果、通訳はそのまま娘に任せることになり、内容が大きくずれていないか確認のために医療通訳者が毎回同席することにした。それでも、時には娘があまりに辛くて母親に言えず、代わりに通訳者にお願いしたこともあった。このようなスタイルは患者の信頼を得ることに結び付き、現在は母娘ともども治療に専念している。

医療通訳の場合は単に通訳するだけでなく、状況に応じて臨機応変に工夫する必要がある。でもそれには豊富な経験と的確な判断が必要で、勝手に意見を述べられても困るため、教科書的には通訳者は基本「足さず、引かず、変えず」となっている。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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