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【識者の眼】「PMDAの安全対策─新型コロナワクチン接種の裏側で」藤原康弘

No.5073 (2021年07月17日発行) P.58

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2021-06-21

最終更新日: 2021-06-21

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これまで本欄で、PMDAにおける審査、健康被害救済業務について取り上げた。今回は、安全対策を紹介したい。

読者の中には医薬品の副作用報告を書かれたり、メーカーの副作用調査に協力されたことがある方もいると思う。医学教育では教わらないトピックだが、医薬品の安全な使用を支える上で、現場からの情報はかけがえのないものだ。医薬品の「副作用報告」は医薬品医療機器等法(旧薬事法)で、医療関係者の努力義務とされている。予防接種法でも医師・医療機関の開設者によるワクチンの定期・臨時接種による「副反応疑い報告」が義務づけられている。いずれの報告もPMDAが一元的に受理し調査・整理している。その結果により、医薬品の添付文書の改訂等が行われ、現場に安全性情報が届けられる。国内の副作用・副反応疑い報告の年間受付件数は、メーカー経由を含めて6万件超に及ぶ(うち医療関係者から1万件弱。なお海外から60万件)。

米国のMed Watchという有害事象報告制度は一般人も報告できるが、日本では医師等からの報告が基本で、より精度の高い情報収集を行っている。医師がPMDAと直接接触する数少ない機会であり、この機会にPMDAのこともお見知りおきいただきたい。

さて、新型コロナウイルスワクチンの話題に移る。今年2月にmRNAワクチンが製造販売承認されたが、PMDAの仕事はそこで終わりではない。全世界的に展開する接種に伴う海外からの副反応情報のみならず、土日祝日なく国内の「副反応疑い報告」を受け付けており、その数は5月末時点で既に1万件を超えている。過去に経験のない大規模接種が展開され、今後も加速・拡大に伴う報告件数の増加が見込まれるため、受付体制の増強も急ピッチで進めている。収集した報告は2週間に一度開催される厚生労働省の審議会に向け、調査・整理して公表する。これまでアナフィラキシーの報告が女性に多く、その頻度が従来のワクチンよりも高いことが国際的にも注目を集めてきた。

副反応疑い報告の頻度の推移や報告内容を短いサイクルで定期的に確認し、現場で重大な安全性の懸念が発生した場合に早急に対処できるこの仕組みは、非常事態下での消防署のような役割と思っている。安全性のウォッチは現場の協力なくては成立せず、ワクチン接種に多忙な現場からの報告に感謝を申し上げたい。報告すべき副反応に遭遇した時は、その一枚の報告が安全対策に役立つことに是非、思いをはせていただければと思う。

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[薬事]

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