No.5073 (2021年07月17日発行) P.62
小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)
登録日: 2021-06-30
最終更新日: 2021-06-30
医師の時間外労働規制の実施(2024年4月)を待つことなく、2019年4月の労働基準法改正によって、医療機関においても年10日以上の有給休暇が付与された職員には本人の希望どおり5日間取得させることが義務付けられている。その背景には、日本人の有給休暇取得率が国際的にも極めて低いといった事実がある。実際、エクスペディア・ジャパンによる世界19カ国・18歳以上の有職者男女1万1144人を対象とした2018年調査では、ブラジル・フランス・スペイン・ドイツなどで有給休暇取得率が100%であったほか、イギリス96%、韓国93%、インド75%、アメリカ71%、オーストラリア70%といった状況下、日本では50%という数値で留まっている。また、厚生労働省が定期的に行っている調査でも、労働者1人あたりの年次有給休暇取得率(取得日数計/付与日数計)は56.3%であった(2020年調査)。同報告書によれば、医療・福祉関連の労働者1人あたりの年次有給休暇取得率は53.4%であったが、医療従事者とくに医師の有給休暇の取得状況はこれまであまり調べられていない。
インターネットを検索したところ、医師専用コミュニティサイトの一つであるMedPeerによるアンケート調査(勤務医3370人、調査期間:2016年5月25〜31日)を見つけたが、それによれば、有給休暇を5割以上取れていると回答した医師は20.1%に過ぎなかった。当然、同調査には一定のバイアスがかかっているだろうが、日本看護協会による「2020年病院看護実態調査」において、看護師の年次有給休暇取得率が5割以上である割合が64.7%(2019年は60.1%)であったという状況に比べ、医師が置かれている過酷な労働環境に大きな変化は見られないように感じる。
医師が有給休暇を取れない事情は様々だろうが、法改正の情報等が未周知であるということよりも、多忙な日常業務の中で代務者を探せないというマンパワー不足に起因することが一番ではないかと考える。学会や研究会等への参加時に有給休暇を消化するという医師も少なくないと思われるが、今回の感染症対策で県外への移動も制限されがちな状況下、いつも注目される時間外労働の実態だけでなく、有給休暇取得率を含む「医師の休暇」の実状やあり方などを調査・検討することが必要である。
小林利彦(浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)[医師の働き方改革]