No.5074 (2021年07月24日発行) P.60
田中章太郎 (たなかホームケアクリニック院長)
登録日: 2021-07-07
最終更新日: 2021-07-07
3回目の緊急事態宣言が解除され、対面での退院前カンファレンスが再開された。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)や人生会議が大切であると言われているが、コロナ禍の今、どうしても後回しにせざるを得ない。とは言え、病院文化(急性期治療)とザイタク文化(暮らしを最期まで)の交流がなければ、地域包括ケアシステムは上手くいかない。タナカは、その交流の中心の場を、退院前カンファレンスであると考えている。
食道がんターミナル患者Oさん。急性期病院(専門病院)に通院され、手術適応なく化学療法や放射線治療を受けておられた。誤嚥性肺炎も時々併発し、入退院を繰り返され、抗生剤治療等にてその都度、肺炎は改善していた。しかしながら今回の入院において、食道がんに関して予後不良の判断となり、在宅医療導入の提案が出た。予後数カ月の説明があり自宅退院を希望された。
今回の入院主治療は、誤嚥性肺炎に対する治療であった為、病院は炎症反応の改善とともに退院を勧めた。一方Oさんは、暮らしの中で経口摂取困難を認めていた為、入院治療にて経口摂取の改善があると思っていた。経口摂取の困難症状は、食道がん進行ではなく、肺炎によるものだと考えていた為だ。肺炎改善に伴い経口摂取の改善が見られないことに、不安感と不信感を募らせていた。急性期治療を目的とする病院と経口摂取の改善を目的とするOさんの、意向の相違がそこにはあった。これらをすり合わせていく作業が、ACPや人生会議の大切な役割と考える。この作業において、急性期病院だけでも、在宅医療関係部門だけでも、患者の最大の利益にはつながらない。様々な作業の専門分担化は日本人らしさでもあるので、仕方がない。こうした専門分野重視の中で、異文化交流の場、つまり、退院前カンファレンスこそが、患者が地域で最期まで暮らしていくための地域包括ケアシステムにおける必須条件だと考える。
それぞれの治療は最先端である一方、患者や市民の信頼を勝ち得ていないのは、つなぎ目、交流の場、こういったところが、まだ未熟であるからではないかと愚考する。
先述のOさんは自宅に帰られ、早速ビールとお刺身を召し上がり「世界で一番うまい」とおっしゃった。ザイタクでの暮らしを満喫され、また、ご家族も最期までザイタクで、という想いを強めつつある。あの日、対面の退院前カンファレンスを行う事が出来た成果に違いない。ぜひ退院前カンファレンスを。
田中章太郎(たなかホームケアクリニック院長)[在宅医療]