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【識者の眼】「掃除の優先順位と人生の優先順位」紅谷浩之

No.5079 (2021年08月28日発行) P.63

紅谷浩之 (医療法人社団オレンジ理事長)

登録日: 2021-08-03

最終更新日: 2021-08-03

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例えば、一人暮らしの自分の部屋が散らかっている、としましょう。それなのに、1時間後には友人が訪ねて来ることになってしまいました。課題は山積みです。玄関も汚いし、廊下に物は出しっぱなし。シンクには洗い物が積み上がり、部屋は雑誌が散らばり、トイレもお風呂も掃除できておらず、ベランダも物置状態。こんな時、いくら自分がベランダ用の物置をDIYするのが得意だからといって、まずそれからかかっていては、時間になった時、何も解決していないことに気づくでしょう。では、この友人の訪問を幸せな時間にするにはどうしたら良いでしょう? 

自分が得意な順ではなく、今日の友人の訪問の意味と価値を考えると良いでしょう。答えはこうです。「廊下のものを端に寄せ、部屋の雑誌を片付け、トイレをそこそこ綺麗にする」。なぜなら、友人とは部屋でオリンピックを観戦し、夕方には友人は帰る予定だからです。シンクとお風呂とベランダには目を瞑ってでも、部屋とトイレに集中するべきです。「玄関は掃き掃除に加えて拭き掃除もしたほうがいいでしょう」という玄関掃除のプロフェッショナルからのアドバイスは、とても大事であることは間違いないのですが、今回に限って言えば、不正解なのです。課題解決方法としては何ら間違っていないことでも、間違っていることもある。ということです。

問題や課題を多く抱える患者さんに出会った時、病状、社会的状況、今後の人生の展望、その人が大事にしていること・すべきこと。それらを見渡したうえで解決すべきこと・エンパワメントすべきこと、の順番づけが求められます。課題が多いばっかりに、関わる人それぞれが「自分の得意なところから」解決しようとして、その人の人生にとって何が大事なのか、が抜けてしまっては本末転倒です。やってることは正解なのに間違っていることもある、間違っているのに正解なこともある。それが人生であり、そんな人生を支えるのが在宅医療です。若い医師からの相談に答える時に出てきた、例え話です。

紅谷浩之(医療法人社団オレンジ理事長)[在宅医療]

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