No.5090 (2021年11月13日発行) P.59
小倉裕司 (日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会委員長)
登録日: 2021-10-28
最終更新日: 2021-10-28
2021年2月に日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)20201)2)が、10月には国際版のSurviving Sepsis Campaign Guideline(SSCG)20213)が出版された。敗血症はあらゆる年齢層が罹患する重篤な疾患であり、発症早期からの迅速かつ適切な全身管理を必要とする。また、生存者も長期的にICU-acquired weakness(ICU-AW)やPost-Intensive Care Syndrome(PICS)などの後遺症にしばしば悩まされる。したがって、敗血症患者のケアを最適化することを目的とした診療ガイドラインの役割は大きい。今回、J-SSCG2020とSSCG2021の特徴や推奨内容を比較検討してみたい。
J-SSCG2020は、日本集中治療医学会、日本救急医学会合同の特別委員会によって作成され、多職種(医師、看護師、理学療法士、臨床工学技士、薬剤師)・患者経験者も含めた総勢226人の参加・協力を得た。一般臨床家だけでなく多職種医療者にも理解しやすく、かつ世界で通用する質の高いガイドラインとすることをめざし、新たに4領域(Patient-and Family-Centered Care、Sepsis Treatment System、神経集中治療、ストレス潰瘍)を加え、22領域118の重要臨床課題(CQ)を抽出した。結果、79個のGRADEシステムによる推奨、5個のGood Practice Statementに加え、18個のExpert Consensusなどが示され、多職種メンバーの豊富な臨床経験や生きた知識が効果的に反映されている。
一方、SSCG2021は、米国集中治療医学会、欧州集中治療医学会が中心となり、国際的な諸学会メンバー60人が作成にあたり、23学会の承認を得た。SSCG2021では、8領域93CQに焦点が絞られ、改訂によりスリム化した。中でもInfection、Hemodynamic management、Ventilation、Long term outcomes and goals of careの4領域が大きく取り上げられ(計67CQ)、診療トピックスのバランスにも偏りが見られる。特にLong term outcomes and goals of careでは20CQのうち実に8個のBest Practice Statementが示され、患者・家族に対する長期にわたる医学的・社会的サポートの重要性が強調された。全体として、69個のGRADEによる推奨、15個のBest Practice Statementが示され、9CQでは推奨が示されなかった。また、2016年版で取り上げられた“anticoagulants”は領域から削除された。
両ガイドラインに共通する方向性として、Patient-and Family-Centered Care、PICSなど、急性期だけでなく長期的・多職種的な“広い視野”で敗血症診療を捉えている点が注目される。一方、両ガイドラインで立場の異なる内容として、①敗血症スクリーニングにおけるqSOFAの位置づけ、②広域抗菌薬や経腸栄養の開始時間、③vitaminC投与の是非、④抗凝固療法の評価などがあり、これらは今後の臨床研究課題としても重要視される。
【文献】
1)江木盛時, 他:日集中医誌. 2021;28:s1-411. 日救急医会誌. 2021;32:s1-411.
2)Egi M, et al:J Intensive Care. 2021;9:53. Acute Med Surg. 2021;8:e659.
3)Evans L, et al:Crit Care Med. 2021;49:e1063-e143. Intensive Care Med. 2021;47:1181-247.
小倉裕司(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター、日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会委員長)[敗血症の最新トピックス㉔]