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【識者の眼】「女性の生き辛さ〜『母性』という縛り」中井祐一郎

No.5091 (2021年11月20日発行) P.62

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2021-11-10

最終更新日: 2021-11-10

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「母性」という言葉に、読者諸姉諸兄はどのようなイメージをお持ちだろうか? 無私の愛とか、種々の芸術に描かれた母子像とか、あるいは身を挺して子の幸福を願う女性の姿をなどを想起されるのだろうか? 私自身も母子家庭で育てられ、医師として独り立ちさせて貰ったことを考えれば、「母性」を徒や疎かにはできない訳である。その上、「母性」の対象は自らの子だけではないとすらされる。ご近所の子供たちは勿論、少々頼りないパートナーにも「母性」は発揮されると言われたりもしている。しかしである……女性であるからといって、「母」である訳でもなければ、「母」にならなければならない訳ではない。

母子保健法というのがあるが、その第一条に「この法律は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため……」と目的が述べられている。しかし、「母性」の定義は法には示されていない。そこで、厚生労働省監修の「母子保健法の解釈と運用」という本を紐解いてみると、「母性」について長々と注が入っている。第一条の注釈には「老人は一般的に含まれない(狭義の母性)」と記され、「母性は、みずからすすんで、妊娠、出産又は育児についての正しい理解を深め、その健康の保持及び増進に努めなければならない」という第四条第一項には、「本条第一項の努力義務を有する母性は、妊婦、産婦、又は育児中の母親に限定されない」という公的解釈が示されている。要するに、狭義の「母性」とは閉経以前の女性を指し、広義では「母性」=「女性」ということであって、閉経前の女性は「子生み・子育て」を目的とした準備に対する努力義務を国家から課せられているということになる。

勿論、「母」であることは尊ばれなければならないし、「母性」は保護されなければならない。だが、公的に「母性」の所有を強要される女性にとって、社会生活において男とは異なる生き辛さを抱え込まざるを得ないだろうと考えてしまう。

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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