株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「ほどよい自己主張が可能となるために考えること〜複雑性PTSDと関連して〜」堀 有伸

No.5100 (2022年01月22日発行) P.59

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2021-12-27

最終更新日: 2021-12-27

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「アサーション・トレーニング」という言葉が、注目されています。相手の立場や感情について配慮しながら、適切な自己主張ができるように練習を行っていく技法のことです。自分の考えや気持ちを相手に伝えることができない、そういう悩みを抱えている人は少なくありません。こんなことを書いている私も、「言いたいことが言えずに我慢してしまう」ことが多い人間でした。

テクニックとしての「アサーション・トレーニング」については、成書などを確認してください。今回は、「適切な自己主張をできない」原因がトラウマ的な経験の影響を受けている場合について考えます。意見を言うことが許されない弱い立場を強いられ続けた場合、人は何か嫌なことがあっても我慢して言葉を飲み込むようになります。感情の伴わないコミュニケーションをしていることも多いでしょう。自己評価が低いために、人間関係で苦労しやすいことは、複雑性PTSDでよく認められる傾向なのです。

そのような場合でも、カウンセリングなどを通じて自分の内面に触れる機会が増えると、今まで向かい合うことを避けていた自分の中のトラウマ的な記憶や人間関係が思い出され、そこに付随する悲しみ、怒り、恐怖などの感情が刺激されることがあります。そこで表現されるものが悲しみや恐怖ならば、それを聞く側も葛藤的にならずに素直に受け止めやすいのです。

難しいのは、怒りをあらわに攻撃的な内容が語られた場合です。際限なくそれを受け止めてしまうことも、受け止めることをしないで否定したり話題を変えたり抑え込むことも、どちらも望ましくありません。本人が怒るだけの事情があったことには共感しつつ、しかし怒りを表現する際には社会的な制約があることを受け入れてもらう必要があります。ずっと我慢してきた人が「やっと怒れた」場合に、それが強く表現され過ぎてしまうことが少なくありません。怒れない人が「怒れた」のは回復に向けた1つの達成なのですが、危険があります。それを聞いた人が上手く受け止めることができずに、再び対人関係の場で傷つきを体験してしまう危険性も高まってしまうのです。

気持ちを受け止められることと、「制限されること=自分が守られること」として体験できることが、ほどよい自己主張が可能となるために重要なのです。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[複雑性PTSD][アサーション・トレーニング]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top