No.5102 (2022年02月05日発行) P.60
中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)
登録日: 2022-01-20
最終更新日: 2022-01-20
2015年に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標3-2には、子どもの死亡率の減少に関する国際的な目標が掲げられている。
「すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生1000件中12件以下まで減らし、5歳未満児死亡率(Under-five Mortality Rate)を少なくとも出生1000件中25件以下まで減らすことを目指す」と明記されている。しかし、日本の5歳未満児死亡率は、厚生労働省の「厚生労働統計」において、今まで公表されたことがない。
5歳未満児死亡率=1000×(1年間の生後5歳未満の死亡数)/(1年間の出生数)。
SDGsの時代にあって、世界中の国が共通して使う指標は、乳児死亡率(infant Mortality Rate)ではなく、5歳未満児死亡率である。特に、低中所得国では、下痢症や肺炎などで1歳から4歳までに亡くなる子どもが多いので、1歳未満の死亡に限定している乳児死亡率よりも、5歳未満児死亡率のほうが子どもの健康状態を適切に表現している。世界保健機関(WHO)やユニセフが子どもの死亡率の世界ランキングをつくるときは、この5歳未満児死亡率を使うのが普通である。
日本政府は乳児死亡率や新生児死亡率を公表しているが、いまだに5歳未満児死亡率を公表していない。もちろん、「乳児死亡数+(1歳−4歳死亡数)」を計算すれば、母数は「1年間の出生数」なので誰でも算出することができる。しかし、国際保健医療学で論文を書く大学院生が、日本の5歳未満児死亡率のデータを参照したいと思ったときに、日本政府が提供するデータがないので、ユニセフの『世界子供白書』から引用せざるをえなかったという。
日本政府は、2016年5月に総理大臣と全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置した。民間セクター、NGO・NPOなどから構成される「SDGs推進円卓会議」との対話は高く評価したい。しかし、世界標準の健康指標である5歳未満児死亡率をきちんと日本政府の公式データとして提供することが求められているのではないだろうか。世界と比較可能な日本の保健医療データをきちんと発信することが、SDGs推進には必須の事項である。
中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[SDGs]