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【識者の眼】「時間を稼いで、どうなった?」岩田健太郎

No.5102 (2022年02月05日発行) P.58

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-01-26

最終更新日: 2022-01-26

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前回(No.5099 http://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=18750)、「時間を稼いで、どうするの?」というタイトルで書いたが、結局、稼いだ時間はどう役に立ったのだろう。

結論を申せば、「稼いだ時間はほとんど無為に使われた」だ。この間、注力すべきは3回目のワクチン、ブースターだ、と申し上げてきたが、本稿執筆時点で想定対象者の16%しか接種を受けていない(https://news.yahoo.co.jp/articles/c41094fdaed474f0659e1d9d8e5183b0e343f12a)。まったくうまくいかなかったのだ。「水際作戦」では積極姿勢を示し、「違い」を見せようとした岸田内閣。前回、「アルファもデルタもあっという間に国中に広がってしまった。オミクロンもそうならないことを祈っている」と書いたが、オミクロンもまた、あっという間に国中に広がってしまった。というわけで水際作戦、大失敗だったと言わざるをえない。

覆水盆に返らず、で、広がってしまったウイルスを抑え込むのは困難だ。政府は慌てて「マンボウ」の実施をたくさんの自治体に適用させたが、そもそも過去の「波」の中で「マンボウ」が感染抑制に効果があった、という学術的な解析を僕は知らない。時々、自治体とかで「マンボウで感染者が減りました」的なパワポのポンチ絵を送ってくることがあるが、あれは「風邪に抗生剤飲ませたら風邪が治った」レベルの話でしかなく、「効果」を示したことにはならない。他の変異株で効果が確認されていない戦略を、感染力の強いオミクロンに対して効果が期待できる、というのはあまりにナイーブな考えと言わざるをえない。

つまりは、オミクロンに対して何らかの対策を取らねばならないんだけど、かといって緊急事態宣言みたいな大げさなことは言いたくない。こういう底意が今回の「マンボウのまん延」を全国にもたらしたのであろう。そこには科学や論理はない。あるのは、なし崩しなレスポンスだけだ。

南アや英国でピークアウトしたから、何をやってもやらなくてもいずれオミクロンは収束する。そういう目算もあるのだろう。「やった感」で十分、と。が、英国では患者数がフラットになり、第5波のようにきれいに消え失せるかどうかは蓋を開けてみないとわからない(https://coronavirus.data.gov.uk/)。

2020年1月、まだ中国で「謎の肺炎? 海鮮市場から?」の段階で申し上げたことを繰り返す(No.4996 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=13875)。

必要なのは冷静であり続けること。しかし油断もしないこと。「わからないこと」に自覚的であり、あいまいさに耐えること。意外な新情報にも驚かないこと。つまり、あらゆる可能性を「想定内」にしておくことである。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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