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【識者の眼】「新しい総合型歯科医療の構築に向けて」槻木恵一

No.5105 (2022年02月26日発行) P.64

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2022-02-03

最終更新日: 2022-02-03

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歯科医師と歯科衛生士は、患者の唾液と毎日格闘している医療従事者である。唾液は、治療を妨げる邪魔な存在として、あまり良いイメージはないし、唾液検査は保険点数の獲得に貢献しないので関心の的にはなっていない。しかし、唾液は口腔内の環境に大きな影響を与える存在であり、う蝕や歯周病の発症や再発のリスク因子判断に重要である。

たとえば、唾液の量が少ない方や質の点で緩衝能が低い場合は、う蝕になりやすい口腔環境といえるが、その環境要因の検査は健康保険で認められていないので、リスク因子を考慮しない治療となる。このことは、歯を磨いているのにまた虫歯が増えたという事態につながる。「削ってつめる」という歯科医療をしているのは、医療保険が治療に対する出来高払いを基本としているからである。この制度は、恐らく医科では何の問題もないかもしれない。しかし、歯科において対象とする歯は、一度破壊すると炎症や再生といった生体反応により修復されない組織である。また、う蝕や歯周病は口腔常在菌が原因であり、口腔ケアなどによる予防への取り組みが病変の発症抑制に効果的であるという特徴がある。すなわち、口腔内の疾患へのリスク因子を把握し、治療後も含めて病気にさせない取り組みこそが、歯科医療の重要な役割といえるのである。

このことから医療保険は、歯科疾患の病因論に基づき予防を含めた医療へと再構築すべきではないだろうか。このような意見に、多くの方は、医療費の増大につながると危惧されるかもしれない。しかし、近年の多くの状況証拠は、歯の健康として高齢になっても残存歯数が多い方は、歯科医療費の削減だけでなく医科の医療費の削減にもつながることが報告されている。さらに、歯周病原細菌が、食道癌や大腸癌の進展に関与することなども証明されており、歯科疾患が全身へ影響を与えることからも、歯科疾患の予防は医科の視点からも意義があるはずである。

今後、現在の治療型歯科医療から、予防型歯科医療を含めた総合型歯科医療へのパラダイムシフトが必要である。そのキーとなる存在が唾液検査と考えている。しかし、不思議なことに唾液・唾液腺を系統的に教育研究する大学の講座は、29歯科大学に1箇所もなく研究面が遅れている。そのような中で、東京大学の飯島勝矢教授によりフレイルの提唱が行われ、オーラルフレイルがプレフレイルと位置づけられていることは、予防型歯科医療の構築に追い風であり、突破口になるのではないかと期待している。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)〔歯科医療〕

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