No.5109 (2022年03月26日発行) P.56
神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)
登録日: 2022-03-02
最終更新日: 2022-03-02
2年ごとの診療報酬改定。以前の病院管理者は、「医事課が対応すればいい、われわれはやるべき医療をきちんとやっていればいい」と鷹揚に構えていても、問題はなかったかもしれない。
最近はどうだろう。医療費の源泉である保険費には、保険者ばかりではなく、国もカネを入れているのだからと、現場がわかっている(はずの)厚生労働省を飛び越えて、官邸や財務省、さらには首相直轄の会議の意思が色濃く入ってくるようだ。医療のあるべき論や国民皆保険、医療の公平性、所得再分配機能としての社会保障の考え方から、国民へは応分の負担と自助努力が求められる方向性にあるようにも思われる。
さて、昨年の12月に改定率が決定された。中医協で配分の議論をする前に、なんだか意味がわからないが、「成長と分配の好循環の創出」ということで診療報酬を使った看護師の賃上げが決まった。さらに、不妊治療、オンライン診療、リフィル処方の話は決まっており、プラス改定のほとんどを持っていかれる。
そして、2月9日の中医協答申では、「コロナで医療機関は頑張った!」という声に対して、「いいでしょう。集中治療室で、人工呼吸器やECMOをやっていたところに大盤振る舞いしましょう」、そしてその原資は、軽症コロナ患者しか診なかった、あるいはコロナ患者を診なかった、いや診られなかった医療機関には「日本は海外より病床が多いのにコロナに使われていない。だから経済が回らない!」という声を背景にとことん厳しい。急性期も厳しい重症度、医療・看護必要度だ。地域包括ケア病棟でも救急を診なければ減算だ。これでは、コロナ対応の論功行賞であり、的外れの恨みへの復讐だ。
これから、診療報酬改定の告示なるものが出て、お祭りのように対策セミナーオンパレードだ。ここで一稼ぎする方々も多数だ。傾向と対策は、そこでのご託宣に譲りたいと思う。しかし、これまでの診療報酬改定は、必ず誘導したい方向に逃げ場をつくってきた。どうも今回の改定はどこへ逃げても地獄だ。
逃げることなく火の中でも現行の医療を続けていく覚悟があるか。それとも安住の地として「そろそろ病院を止めませんか?」をめざす方向もあるのかもしれない。
神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[診療報酬改定]