No.5114 (2022年04月30日発行) P.62
西﨑祐史 (順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)
登録日: 2022-03-30
最終更新日: 2022-03-30
総合診療科医は研修医教育において重要な役割を担う。総合診療科医は幅広い診療分野の知識を有し、多臓器にまたがる複雑な病態を扱うことに長けている。また、症候学・臨床推論、患者─医師コミュニケーション、プロフェッショナリズム、身体診察等の教育も得意であるため、多角的な視点から、研修医の基本的臨床能力の向上に大きく貢献できる。
「実際に、総合診療科をローテーションした研修医の基本的臨床能力は、ローテーションしていない研修医と比較して、どのような違いがあるのだろうか?」
この問いに対して、私たちは、NPO法人日本医療教育プログラム推進機構※(Japan Institute for Advancement of Medical Education Program:JAMEP)が開発した、基本的臨床能力評価試験※(General Medicine In-Training Examination:GM-ITE)の試験結果データを用いて、横断研究を実施し、評価した。対象は、2016〜18年度にGM-ITEを受験した初期臨床研修医1万1244人である。研究方法は、アンケート調査で収集した研修教育環境(総合診療科ローテーションの有無を含む)とGM-ITE総合得点との関連をマルチレベル分析にて評価した。
解析対象者のうち、39.7%(4464人)の研修医が総合診療科のローテーション経験があることがわかった。総合診療科ローテーションを経験した研修医のGM-ITE総合得点は38.1±12.1点(平均点±標準偏差)であった。その一方で、総合診療科のローテーション経験がない研修医のGM-ITE総合得点は36.8±11.7点であり、総合診療科ローテーション経験がある研修医よりも低得点であった。また、総合診療科がない病院で研修をした研修医のGM-ITE総合得点は、36.5±11.5点とさらに低かった。
救急当直の回数や平均の入院患者受け持ち人数などの変数で調整した多変量解析の結果からも、総合診療科ローテーションを経験した研修医の得点は、総合診療科のローテーション経験がない研修医(総合診療科がない病院で研修した研修医)に比べてGM-ITE総合得点が平均1.18点(標準誤差0.30点、P値<0.001)高く推定された1)。
以上の結果から、総合診療科ローテーションと研修医のGM-ITE総合得点の間には、正の関連性があることがわかった。日常臨床のみならず、研修医教育という観点からも、総合診療科医の貢献度は高く、わが国における総合診療科医のさらなる発展に期待したい。
※「NPO法人日本医療教育プログラム推進機構」および「基本的臨床能力評価試験」の詳細については、第1回の記事(No.5102)を参照。
【文献】
1)Nishizaki Y, et al:BMC Med Educ. 2020;20(1):426.
西﨑祐史(順天堂大学医学部医学教育研究室先任准教授)[研修医][働き方改革][総合診療]