No.5119 (2022年06月04日発行) P.64
藤島清太郎 (慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長)
登録日: 2022-04-27
最終更新日: 2022-04-27
本年3月の日本集中治療医学会において標記テーマで話す機会を頂いた。直前の福島県沖地震で仙台国際センターが被災し、急遽Web開催となったのが残念だったが、セッションでは活発な質疑応答が行われた。今回はこの話題を取り上げる。
一般に標準治療はガイドライン(GL)等で示され、推奨は既出の主にランダム化比較試験(RCT)を対象としたメタ解析を基に決定される。その作成プロセスは厳密であるが、委員の意向を反映する余地を残している。副腎皮質ステロイドは、医師の判断が最も分かれる薬剤のひとつであり、GLもその影響は免れえない。
わが国では、敗血症の約20%に低用量ステロイドが投与されている。RCTの結果は様々で、ヒドロコルチゾン投与による2008年のCORTICUS試験、2018年のADRENAL試験はいずれもショック離脱効果のみであったのに対し、2018年のヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与によるAPROCCHSS試験では生存率改善が示された。推奨もGL間で微妙に異なり、2016年までのSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)や2020年までの日本版GLは基本的に非推奨で、治療抵抗性の低血圧持続時のみ弱い推奨であるのに対し、SSCG2021では敗血症性ショック全般に弱い推奨となった。
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)においてもわが国では約50%(うち高用量10%)でステロイドが投与されている。RCTの成績は、2006年のメチルプレドニゾロンを用いたLaSRS試験では人工呼吸器離脱日数延長のみ、2020年のデキサメタゾンによるDEXA-ARDS試験では死亡率の改善が示されるなど、やはり相反している。GLの推奨も不統一で、北欧GL2016、韓国GL2016は非推奨に対し、日本版GLは2016年以降推奨している。
一方、COVID-19では当初様々な種類、用量のステロイド療法が試みられたが、デキサメタゾン6mgによる最大規模のRECOVERY試験で生存率改善が示された結果、現在は標準治療となったが、その後も多くの探索的治療が継続中である。
このように、GLで示される標準治療はその時点、その地域で無難な治療法に過ぎず、常に探索的治療による検証・改善が行われている。将来的にはこのサイクルをRCT以外にも広げ、エキスパートが探索的に実施する非標準的治療のエビデンスをこのプロセスに取り込み、より有用な推奨に繋げる必要がある。
藤島清太郎(慶應義塾大学医学部総合診療教育センター・センター長)[敗血症の最新トピックス㉙]