No.5119 (2022年06月04日発行) P.62
宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)
登録日: 2022-05-09
最終更新日: 2022-05-09
薬剤中止寛解はドラッグフリー寛解とも言われる。関節リウマチ(RA)のように原因不明の病気であれば、治療継続が行われることが多い。しかし、薬剤を継続することは副作用の問題のみならず、経済的にも大きな負担となる。高価な生物学的製剤を止めても症状がみられなければよく、この場合はバイオフリー寛解とも言われる。
RAではTNFα阻害薬、特に抗TNFα抗体が使われ、薬剤中止寛解の要因が解析されてきた。それらには、①疾患の早期、②関節破壊がない、③寛解の程度が強い(deep remission)、などがある。けんかにたとえれば、「先に強く殴った」ほうが勝ちである。しかし、強く殴り過ぎて副作用が出てはいけない。TNFα阻害薬の場合には、メトトレキサート(MTX)を使っていると薬剤中止寛解が起こりやすい。ただし、当初は著効を示していた生物学的製剤が徐々に効かなくなり、いわゆるエスケープ現象を起こしてくることも多い。一方、IL-6阻害薬(抗IL-6レセプター抗体)はTNFα阻害薬と遜色ないほどの有効性が得られる。エスケープ現象は少ないし、MTXを使わなくても済むことも多い。ただし、CRPも陰性化するので、感染症の併発には要注意である。
TNF阻害薬のほうが早く効くので「うさぎ」にたとえるとすれば、IL-6阻害薬では「かめ」になる。スタートダッシュは断然に「うさぎ」のほうが勝るが、持久力となると「かめ」が勝つことが多い。しかもエスケープ現象も少ない。
しかし、IL-6阻害薬では薬剤中止によってRAが再燃することも多い。この場合は再開をし、間隔を通常より空けて、使用頻度を減らす工夫もある。結果的にこのほうが費用的に安くなり、しかも寛解が継続する。
一口に生物学的製剤と言っても、その中身は多様である。当初は点滴静注しかなかったが、今では皮下注もある。医薬品を「自家薬籠中のものとする」ことがますます必要である。
宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[寛解]