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【識者の眼】「謝罪会見にみる危機管理」川﨑 翔

No.5120 (2022年06月11日発行) P.61

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2022-05-09

最終更新日: 2022-05-09

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先日、知床の遊覧船が沈没するという痛ましい事故がありました。今回の事故について、運営会社社長の謝罪会見が批判を浴びています。確かに、船長に責任を押し付けるような表現やどこか他人事に感じさせるような表現は、反発を受けても仕方がない部分があります。もちろん、運営会社の管理体制については、きちんと責任を問われるべきですが、社長個人の言動をことさらに批判しても、問題の解決にはならないと思います。「悪者」とされた人については個人攻撃をしてもかまわないという風潮は、決して健全な社会とは言えないでしょう。

謝罪する側としては、揚げ足を取られたり、言葉尻をとらえられたりする可能性があることに十分注意して、発言や発表を行うべきです。特に謝罪する側として主張したい事実がある場合は、責任を回避していると受け取られないようにする必要があります。

上記のような謝罪会見として参考になるのが、2018年に発生した日大ラグビー部の反則タックル事件における記者会見です。加害者となった日大ラグビー部の学生が行った記者会見と日大が開いた記者会見のコントラストは強烈だったので、ご記憶されている方も多いと思います。

学生側の記者会見は、説明が十分に伝わるように、また揚げ足を取られたりしないように、綿密に準備されたものでした。具体的には、①冒頭で代理人の弁護士が会見の趣旨を説明、②学生本人は事前に作成した陳述書を読み上げ、自身の責任は真正面から認めつつも、加害行為をコーチから指示されたことを説明、③仮定の質問や刑事責任に関わるセンシティブな部分については弁護士が介入して回答を回避する、と記者会見の手本ともいうべきものでした。そのため、揚げ足を取られたりすることなく、真摯な説明を行うことができた好例と言えます。

医療機関においても、医療事故や不祥事等で、意見を公にしなければならないという場合があります。一方で、SNSが発達し、個人の発信力が強まった昨今においては、ネガティブな評価ほど、あっという間に拡散される傾向にあり「真意が伝わらない」という事態が増えているように感じます。今後は、表明すべき意見や対応を慎重に吟味した上で動くことが、ますます重要になってくるでしょう。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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