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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場(大学『事務職員』の世界)」岩﨑康孝

No.5120 (2022年06月11日発行) P.60

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-05-26

最終更新日: 2022-05-26

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時々、大学にお勤めの方がお見えになります。

教員、研究職、研究補助職、事務職、技術職、アルバイト等、様々な職種の方がいらっしゃいます。今回は、大学の「事務職員」についてお伝えします。

労働市場としてみた場合、大学は比較的大きな市場です。

国内の大学数は約800校、総職員数は約25万人、女性比率は65%(いずれも、教員以外の職員)。大学数はほぼ同数で推移。職員数は年1%程度の増加率です(※1)。高校生の大学進学率が既に60%程度と高いこと、少子化傾向から成熟した市場ということでしょう。

大学生の患者さんからは、事務職員に対する文句をしばしばお伺いします。しかし、ご自分の就職先となると大学事務職員を希望なさる方が少なくありません。理由は「安定」「処遇」「業務が具体的に分かる」等です。イメージとしては公務員並びです。

実際に、競争倍率は数十倍から200倍と言われています(※2、就職サイトによる情報)。

国内の大学の新卒採用数は各大学で年間数名程度。仮に5人として計算すると年間の募集数は4000人です。医学部入学定員が9400人(2021年)ですから、その半分以下です。大学の卒業者数は毎年約60万人ですので狭き門と言えるでしょう。

メンタルヘルスの現場では、事務職員の方から「学生が原因」の悩みはほとんど聞きません。一般の職場と同じような職場の人間関係やご家族等の話をお伺いすることが多いです。「教員」の方が学生との関係で来院なさる比率に比べぐっと少なくなります。接触頻度の問題でしょうか。

また、職場に問題があったとしても、事務職員はなかなか転退職しません。

第一の理由は、転職先も「大学」とした場合、労働市場が厳しいことです。

第二の理由は、業務の汎用性が高くないことです。確かに、学校事務は一般企業で応用できる経験としては弱いようです。たとえば、学校での「経理」は一般企業とは異なります。しかし、厳しい就職を勝ち抜いており基礎的な能力は高いと想定されます。応募する側が躊躇しているように見えます。

また、メンタル不調により休職する方に対して、大学側は一般企業に比べてとても理解があります。推測ですが、障害を持った学生への配慮の経験が日常的にあるので応用できるのではないかと思います。そういう意味では「良い職場」と言えます。

次回は、「ギグ・ワーカーの世界」をお伝えします。

※1 文部科学省:2021年度学校基本調査.

※2 https://careergarden.jp/daigakushokuin/shiken-nanido/

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[メンタルヘルス][労働市場]

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