No.5120 (2022年06月11日発行) P.58
岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)
登録日: 2022-05-30
最終更新日: 2022-05-30
今年4月の診療報酬改定で新設されたばかりの「電子的保健医療情報活用加算(以下、電子加算)」が廃止も含めて見直される可能性が出てきた。マイナンバーカードを保険証として登録すれば、特定健診、レセプト、予防接種、薬剤情報といった医療情報を個人がマイナポータルで閲覧可能となり、対応医療機関や薬局でマイナンバーカードを提示して受診し、その医療機関や薬局がこれらの医療情報を閲覧して診療に役立てれば、電子加算を請求できる。危険な重複投薬や併用禁忌の発見、防止につながる等患者にとってもメリットがあると同時に、電子加算導入には医療機関や薬局の対応を促進するという政策誘導目的もある。
ところが、マイナンバーカードを提示した患者は通常の保険証で受診した患者より加算額(初診7点、再診4点)の3割分患者負担が増えることとなり、逆にマイナンバーカードの利用を阻害するのではないかと懸念されるようになった。見直しを求める背景には夏の参院選への逆風になりかねないという政治的配慮もあるようだ。こうした議論を見ているとデジャ・ビュ(既視感)を感じてしまう。そう、2018年に導入されたが、1年余りで廃止にいたった妊婦加算である。
この他にも、患者にとってのメリットが見えにくく、患者とは無関係な政策誘導のために導入されたが、結果として意図された効果とは逆効果になってしまう例も少なくない。調剤薬局の調剤基本料もその例で、一部医療機関からの処方箋の集中率に応じて減額される仕組みにすることで面分業を促進しようという政策誘導を目的とするものだが、結果として集中率の高い門前薬局のほうが「近くて安い」ということになり、門前薬局に患者を集中させる効果になっている。
患者は、それが自身のメリットにつながることを理解すれば、多少の負担増は厭わないはずである。あるいは患者負担がどうしても問題というなら、介護保険のケアプラン作成料のように特定の加算のみ患者負担無しとする等、方策はあるのではないだろうか。
岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[診療報酬改定][マイナンバーカード]