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【識者の眼】「戦傷外科のポイントは開放創」鈴木隆雄

No.5122 (2022年06月25日発行) P.60

鈴木隆雄 (Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)

登録日: 2022-06-06

最終更新日: 2022-06-06

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戦傷外科と一般の外傷外科に違いがあるとしたら、傷の閉じ方だと思う。医学文献や成書でデブリードマン(DBR)の項を見てもらいたい。DBR後、創をどのように保ちいつ閉じるかについて詳述しているのが戦傷外科、対する一般の外傷外科の多くは創閉鎖を詳述していない。この点以外、両者は大同小異だと思う。

手術後の創縫合として、創を直ちに閉じるのを一次縫合、閉じずに自然治癒させるのを二次治癒、その中間で、手術から4~5日後に創を閉じるのを遷延一次縫合(DPC)と呼ぶ。DBRからDPCの間は、創表面に肉芽組織が覆う期間で、感染徴候がなければガーゼは交換しない。戦傷外科では「この傷はDPCにする」とよく言う。開放創とは言わず、DPC=開放創の意味で使っている。

野生動物がケガをすると、創部をなめるだけで治癒する。それにヒントを得たかどうか、ビルロートは痂疲形成中の開放創に濃縮便をしみこませたガーゼを貼り付け、感染の有無を実験した。毎日この便付きガーゼを交換したが、感染は起こらなかった。

感染の問題は嫌気性や好気性等の複数菌による相乗効果である。開放創は空気に触れるため嫌気性菌は育たない。この効果は大きく、特に腹腔内感染では重要である。

フランス語源としてのDBRは切開排膿を意味する。すなわち、異物除去が主目的ではなく、十分な切開を加えれば生体自身が異物や細菌を除去すると考える。人間も含め動物の自然治癒力は本当にすごい。敗血症が重症化し臓器不全でICU入室となることがある。原因は感染がおさまっていないだけ。十分な切開排膿と開放創になっているか、再度検討したい。

汚染創は閉じるなとは、すべての外科医が知っている。でもなぜか閉じてしまう。創を閉じないと様にならず、患者も納得しないためか。でも身近な例として破傷風。私は開放創で破傷風を起こした症例を見たことがない。自然が閉じるなと言うなら、それに従うのが一番安全だ。

鈴木隆雄(Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)[感染]

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