No.5122 (2022年06月25日発行) P.61
徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)
登録日: 2022-06-15
最終更新日: 2022-06-15
今回から新しい連載シリーズを始める。タイトルは診断エクセレンス(diagnostic excellence)である。診断エラー予防を学問として研究する段階にはまだ十分にはない。今求められるコンセプトは、診断に関連する医療の質と価値を高めるために、医療現場へ具体的方策を示すことだ。それを診断エクセレンスと呼ぶ1)。
ある要因によって、深刻な診断エラーにつながる現象を、「診断の影(diagnostic overshadowing)」という。診断の影を特定して意識し、それを照らすことは診断エクセレンスには必須である。たとえば、精神疾患の合併が、診断の遅れにつながるケースは多い2)。現場では身体合併症と呼ばれ、そのパターンは多様である。直接要因は、複雑な症候や患者とのコミュニケーション不全、患者からの挑戦的行動、がある。また、医療機関の要因には、外来の混雑、時間的プレッシャー、人手不足、がある。
認知症と統合失調症の患者が、急性虫垂炎を発症した場合、穿孔性虫垂炎の割合が多い3)。また、統合失調症の患者では、消化性潰瘍の穿孔リスクも高い4)。これらは、本人の痛みへの感度低下もあるが、「診断の影」現象もある。精神疾患を有する患者が受診したときに、医師が、身体症状を精神疾患の症状と誤認することが診断の見逃しに関与している。
精神科リエゾン専門家が24時間オンコール体制で病院からのコンサルトを受け入れると、診断エクセレンスの達成につながる2)。身体症状を呈する精神疾患患者の誤診のリスクを減らすのに有効だ。また、院内にリエゾン専門家が不在の場合、外部のリエゾン専門家による教育プログラムを定期的に実施することも効果がある。〈6月15日〉
【文献】
1)McDonald KM:JAMA. 2022;327(20):1955-6.
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2792211
2)Shefer G, et al:PLoS One. 2014;9(11):e111682.
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0111682
3)Lin HR, et al:Medicine(Baltimore). 2020;99(5):e18919.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7004784/
4)Kallur A, et al:Cureus. 2022;14(2):e21800.
徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[診断エラー][精神疾患の合併]