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【識者の眼】「診断エクセレンス(2):パールとチェックリスト」徳田安春

No.5124 (2022年07月09日発行) P.66

徳田安春 (群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)

登録日: 2022-06-27

最終更新日: 2022-06-27

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まず、50代男性、意識障害、救急車で搬送されたケースの診断ストーリーについて紹介する。米国アトランタ市のケースだ。搬送の数分前に、公園のベンチ上にて昏睡状態で通行人により発見されたケースなので、既往歴など詳細は不明。グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)はE1M3V1(合計5点)、血圧180/100mmHg、心拍数100回/分、脈拍数24回/分、体温36.0℃ であった。

瞳孔径は左右差なく、両側3mmで、対光反射も両側迅速であった。担当研修医は脳血管障害を考えて、頭部画像検査をオーダーして、その検査順番を待っていた。そこへ内科チーフレジデントが通りかかって、次のクリニカルパールを浴びせた。

A stroke is never a stroke until it has received 50mL of D50.(注:D50=50% dextrose:デキストロースとはブドウ糖の意味)

「脳卒中は、D50を50mL投与するまでは、決して脳卒中ではない」。さっそく、担当研修医は50%ブドウ糖50mLを静注した。その後、患者の意識は回復した。

最近引退したという、カリフォルニア大学サンフランシスコ校内科教授のローレンス・M・ティアニー先生はクリニカルパールを頻用した臨床教育を行っていた。以前、ある勉強会でティアニー先生と面談する機会があった私は、「最も好きなパールは何でしょうか」と尋ねたところ、上記のストーリーと共に、この珠玉のパールが最も好きであると話された。実は、ストーリーの中での研修医はティアニー先生ご自身であったという。

複雑な鑑別診断を考えるときに助けとなる病態生理チェックリストに、VINDICATE-Pがある。病態生理カテゴリーの頭文字を並べたものだ()。ケースカンファレンスでは、ティアニー先生はパールだけでなく、このツールも原則全例に応用して、鑑別診断を網羅的に想起していた。

米国過誤訴訟全体の約3割をカバーする医療過誤訴訟データベース(2006~15年)の研究によると、血管系、感染症、悪性腫瘍の「ビッグ3」が、重度医療事故ケースの約7割を占めていた1)。表の上から3つのVINだ。このチェックリストを使うエビデンスとなったといえる。

【文献】

1)Newman-Toker DE, et al:Diagnosis(Berl). 2019;6(3):227-40. 

徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[病態生理]

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