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【識者の眼】「熱中症対策としてマスクを外させるのは悪手ではないか」薬師寺泰匡

No.5124 (2022年07月09日発行) P.60

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2022-06-28

最終更新日: 2022-06-28

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梅雨に入り、気温が上昇し、連日真夏日となる地域も出てきた。全国各地の小中学校で集団熱中症が発生し、同時に多人数が搬送されたことが報道されている。マスク着用により熱中症のリスクが高まるということで、昨年から厚生労働省はリーフレットを作成して対策に乗り出しており1)、マスコミ各社は熱中症に至った際にマスクの着用をしていたかどうかを積極的に報道している。熱中症対策を通してマスクOFFを根付かせようとする思惑があるのかもしれないが、個人的には悪手であると考えている。

まず、マスク着用で熱中症のリスクが高まると断言しているものの、どの程度リスクが高まるのかというエビデンスがなく、“何となくリスクっぽい”という状況でしかないという点が挙げられる。マスクと体温変化について研究された文献はいくつかある。例えば気温35℃、湿度65%の環境で30分間の運動負荷をして、直腸、外耳、顔面の温度を調べた研究では、マスクの有無で温度変化に差がなく、顔面の湿度や自覚する熱感には差が生じたということであった2)。また、気温32℃、湿度54%の環境で60分間の運動をして、直腸温、マスク内外の温度と湿度、温冷感、喉の渇き、倦怠感、呼吸不快感を調べた研究では、運動後の直腸温上昇はマスクの有無で差がなく、主観的には呼吸の不快感だけマスク着用時に増すという結果であった3)。これらの研究をみると、どちらかというと、マスクは熱中症のリスクにはならないのではないか。

熱中症の予防で重要なのは、暑さ指数(WBGT)が高くなる状況での運動を避け、休息と水分補給を適切に行うことである。そもそもの問題をもっと啓発する必要がある。

もう一点、「熱中症予防でマスクを外しましょう」と呼びかけた場合、10月以降涼しくなってきた頃に、どのようにマスクと向き合うのであろうか。「顔が暖かくなるからマスクを着用しましょう」とでも説明するのであろうか。あくまでも、マスクは感染予防として着用するものなので、その効果について言及して脱着の推奨をするのが適切と考える。夏のマスクが不快であることに間違いはないので、感染対策上効果が乏しい状況で、不快なら外そうと呼びかけ、熱中症対策は根本的な問題の解決を促すように声かけをしたい。

【文献】

1)厚生労働省:「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイント.

   https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_coronanettyuu.html

2)Kato I, et al:Ind Health. 2021;59(5):325-33.

3)Yoshihara A, et al:Sports Health. 2021;13(5):463-70.

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[新型コロナウイルス感染症]

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