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【識者の眼】「医療界での分断の解消を」岩田健太郎

No.5128 (2022年08月06日発行) P.61

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-07-29

最終更新日: 2022-07-29

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国内外で様々な「分断」が起きていると報じられているが、医療界の中にも「分断」の構造を垣間見ることがある。

顕著なのは新型コロナウイルス感染症だ。感染者が増えると、コロナを担当している病院はその対策に忙殺される。そして、重症の病床も増床しようという話になり、他の診療の事実上の制限が始まるのである。例えば、待機手術などは延期するよう要請が入る。

コロナ対策で忙殺される医療者が四苦八苦する一方、こうした構造から、不本意にも「暇」になってしまう医療者も存在する。自分のデューティも技量も発揮できず、イライラする。驚くべきことだが、多くの医療者(医者含む)は、基本的な教科書や論文を読む習慣を持たず、さらに驚くべきことに、ワイドショーやYouTubeなどから医療情報を得ていたりする(まじで)。そして、そういう怪しげな情報源を根拠に「にわかコロナに詳しい人」になり、「ぼくがかんがえたコロナ対策聞いてくれよ」と忙しい担当者に詰め寄ってくるのである(本当に)。

一方、上手にコロナ対策をしている医療機関は、組織の全員をコロナ対策というミッションに巻き込んでいく。術前患者全員にPCRをやりたい、という外科医と議論を重ねるのは時間の無駄なので、「分かりました。では、先生方の責任でそれをやってください」となり、外科医自身で患者の検体採取を行う。多くの診療科の医師をコロナ診療に参与させ、決して特定の医師、特定の部局に丸投げしたりはしない。皆がコロナにコミットすることで、「コロナは少なくともビビりまくって、逃げ出すような感染症ではない」ことが腑に落ちて理解できる。ここがスタート地点だ。

病院で「分断」を生まないためには以上の「仕掛け」が必要だ。コロナを診ない医療機関と診る医療機関の組織間分断解消にはもっと徹底した「仕掛け」が必要だ。自治体もさることながら、個人的にはここでこそ、医師会の力の見せ所だと希望している。軽症の入院患者はその施設に留め置いてほしいし、発熱外来があるところとないところのギャップはぜひ解消してほしい。前にも同じようなお願いはした(No.5107、2022年3月12日号 https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=19158)。

2020年に同僚をコロナで失ったが、2022年の現在、コロナは医療者が怖がる病気ではない。分断は不要だ。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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