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患者中心の医療(山中克郎)[プラタナス]

No.5127 (2022年07月30日発行) P.3

山中克郎 (福島県立医科大学会津医療センター総合内科教授)

登録日: 2022-07-30

最終更新日: 2022-07-29

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  • 最近、女性がやたら綺麗に見えるので心配になり友人に相談した。歳をとり基準が下がったのではないかと言われた。いや、女性に対する尊敬の気持ちが強くなったのだ。

    R子さんは80代の女性である。最初に会った時は、非常に強い腹痛を訴えてベッドに横たわっていた。消化器内科の診察で肝内胆管癌を疑われていたが、腹痛の原因とは考えにくいとの見解であった。

    ベッド横にひざまずいてR子さんの手を優しく握り、最も困っていることは何かと聞いた。2カ月前から右下腹部にひどい持続痛があるという。前皮神経絞扼症候群を疑い、カーネット徴候陽性を確認しキシロカイン®の局所注射を行った。何度かの注射により痛みは減少したが、数日後にはまた強い腹痛を訴えるようになった。

    身体症状症(身体表現性障害)かもしれないと考えた。訴えに共感し、定期的に外来予約を入れた。症状を完全に取り除くことは難しいが、症状を抱えながらも日常生活はできるだけ行うようアドバイスした。少しずつ体を動かすとよくなっていくことが多い疾患である。時間はかかるが、必ずよくなると希望を与えた。

    R子さんは私のことを気に入ってくれたようであった。春になったら自慢の「ふき味噌」をつくり持ってくると約束してくれた。「女性にこんなに優しくしてもらったことはありません。一生大切にします」と私は笑顔で答えた。

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